有名人
美月って下の名前で書いてあるネームを見て綺麗な名前だなって思った。
まぁ、出逢いは最悪だったけど。
俺がフラれる現場を見たのは美月ぐらいだと思う。
結構ちゃんと好きだったんだけどねぇ。
なーんでいつも同じ理由でフラれるんだっつーの。
普通なら恥ずかしいことかもしれない。
もしかしたら、もう二度とこの店こねぇ!って思うもんなんじゃねぇかって。
それなのに、なんでだろ。
―――また逢いたいって思ったんだ。
「あ、ねぇ…美月さん!」
カウンターに戻った彼女を追うと、店長と楽しそうに話してる。
それが気に入らないって思ってる俺はそう、きっと美月が気になってる。
それは自分でも分かってるし認めてる。
ただ、恋してる?ってことになると、イエスとはっきり言えない。
元カノの気持ちをあの一瞬で理解した美月を正直すげぇと思ったし、女心をよく分かっていない俺は、美月と話してみたいと思ったんだ。
別にそれが何になるってわけじゃないけど。
「え、」
「休みの日っていつ?」
「…はい?」
あきらかに不審顔。
「あ、俺向かいの服屋の店員の登坂っていいます」
自己紹介してねぇか!って思ってとりあえず素性を伝えた。
でも思いの外返ってきた言葉にテンションがあがる。
「…知ってます、有名だから…登坂さん」
「え、有名!?」
「はい。イケメンカリスマ店員って…」
言ってカァーって赤くなってる美月。
「うわ、マジで!?いや、イケメンでもカリスマでもないけど、知っててくれたのはすげぇ嬉しい!」
柄にもなく照れそうになる。
けど美月のが真っ赤になってて。
「んじゃ話は早い!俺とデートしてくれない?」
「…はっ!?」
「デート、デート!美月さんに興味ある」
「え、無理。あたし無理です」
…何故か悲しそうな顔をする美月。
あれ、なんでだ?
「あのあたし、本当にごめんなさいっ」
ペコッと頭を下げると美月はスタッフ専用のドアの中に逃げるように入ってった。
ポツンと残された俺。
ただ知りたいと思っただけなんだけどな。
煮えきらない気持ちだけが残ったんだ。