Sweet Honey | ナノ

無意識ってやつ

「ブレンド一つ」

「かしこまりました。店内ご利用ですか?」

「…はい」


うわー失敗。

ミスったかも。

おっかしいなぁ、この時間いるはずじゃねぇの!?

キョロキョロ店内を見回している俺を見て、ここの店長の土田がほんのり微笑んだ…気がした。


「来月発売の新作の試食があるんですけど、いかがですか?」


会計を済ませた俺にそんな言葉。


「あー今そういう気分じゃないんで…」


甘ったるいもんよりも、ほろ苦い珈琲で喉をうるわせたい。

白いカップに入った珈琲を手に、奥のソファーに座ってズズっと啜った。


「うま」


やっぱこれ美味い!

絶対ぇ俺だけじゃないよね、この珈琲美味いって飲む奴。

とりあえずスマホを取り出して5万の売上を探す。


「こんばんは、新しいシフォンケーキの試食いかがですか?」


顔をあげるとそう…――――「あ…」いたじゃん。

いつもカウンターに入ってる彼女。

ニコっと微笑みながら俺にケーキを差し出している。

あ、店長が言ってたのこれか!!

うわ俺さっき断っちゃったけど…――まぁいいか。


「いいの?」


下から上目使いで聞く俺にニコっと微笑む。

その瞬間揺れた長めの赤い髪から甘い香りがフワリと漂った。


「はい!ぜひ感想聞かせてください」


楊枝に刺したケーキを差し出す彼女の腕ごと掴んでそれをパクっと口にした。

あ、思ったより甘くねぇ。

これなら男も食える。

そう言おうとして顔を上げると、真っ赤な顔で俺を見ていて。

え、俺なんかした!?


「あ、あの…う、腕…」

「え?」

「あの掴んでます…」

「え、ああ。悪い!」


うわお、無意識って怖えええ。

そんなつもりなかったよーって通じるわけもなく、でも握っちゃったもんは仕方ねぇ。

スッと離してもう一度真っ赤な彼女を見上げた。


「美味いよ、そんな甘くないし。男でも十分食えると思う」


俺の言葉にまだ真っ赤な彼女は「あ、ありがとうございます」小さくリスみたいに歯を見せて笑うと、そそくさとカウンターに戻って行ったんだ。

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