気分転換
「あれ…臣さん、彼女と別れたって言ってませんでした?」
客が帰ったあと、バイトが俺にそう聞いた。
一応他の客がいないか見まわしてから「あー常連には内緒にしてある、面倒だから」そう言って今日の売上をチェックする。
店長とは昔っから仲良くて、ほぼこの店を俺に任せて貰っていた。
だから、売上はすげぇ気にする。
「ん〜あと5万いかねぇかな…」
スマホのLINEを見ながら客を探す。
今日の今日、来てくれそうな客…
「女子多いっすね、臣さん」
いいな〜!って鼻の下を伸ばして俺のLINEを覗き込むバイトだけど…
「お前彼女いんじゃん!」
「いや、いますけど…。勿論大好きっすけど、たまには他の女…って気になりません?」
すげぇ真剣にそう言ってくるけど、完全俺に同意を求めてくるけど…「それ彼女可哀想だな」首を振って売上に視線を戻す。
言われてショックだったのかバイトは興醒めしていて。
まぁショック受けるならまだ救いようがあるって思うけど。
あーどーっすかな。
休憩でもするかな。
チラっと時計を見ると夕方6時。
俺はジャケットを羽織るとスマホをパンツのポケットにしまってバイトに言った。
「ちょっと休憩してくるわ」
「は〜い!」
季節は4月。
出逢いと別れが交差するこの時期。
行き交う人々は忙しそうにカツカツ歩いている。
そんな中に紛れて俺も忙しそうに大股開いて歩いて行く先には、カフェ【ベローチェ】。
ここの珈琲が好きだった。
特に理由なんてないけど。
そもそも味オンチな俺にはどこぞの何が美味かった!って言われても、ぶっちゃけ分からない。
しいてゆうなら、学生時代の彼女の作ったケーキがクソ不味かったくらい。
それでもちゃんと全部食ったけど。
だけどベローチェの珈琲はここ最近のお気に入りで、一息付きたい時に毎回足を運んでいた。
大通りの交差点の上にかかってる歩道橋を降りるとあるそこに一歩足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ」
珈琲の香りと、可愛い声に自然と頬が緩んだ。