ただの客
美月の背中に腕を回して抱きあげるように持ち上げると、目一杯背伸びをして俺に捕まる。
それがまたすげぇ可愛くて、もっともっと…――欲しくなる。
赤い唇を上から舌でなぞると「ンフッ…」鼻から声が漏れて、それが余計に俺を興奮させるんだ。
だけど…
「広臣ぃ…」
そう言った美月が、俺の頬を両手で包み込むように触れて、そのまま俺と同じようにその赤い舌で俺の唇をなぞる。
どこからともなく身体の奥からゾクゾクっとして、無駄に下半身が反応する。
ペロって唇を舐めながらも、美月の手は俺の腕を上から下へと触っていって…
「ちょっと待って…」
キスを止めたのは俺だった。
…ここ会社の駐車場。
俺ここで美月のこと抱きたくねぇ。
こんな場所でなんて御免だ。
それなのに。
「待たない」
そう言った美月は、なおも俺の首に腕をかけて自分に引き寄せるようにしてまた甘い舌を絡めてきた。
いや、今チューされると絶対色んなことがやべぇし!
そう思いながらも、キスの心地良さに意識も理性も吹っ飛びそうで…
美月の髪の毛を掻き撫ぜながらも深いキスを続ける俺達に、俺のスマホがケツでバイブ音を鳴らす。
誰だよ、こんな大事な時に!
まーじあり得ねぇ、無視無視!
そう思って更に舌を美月に絡ませる俺に、美月の手が俺のケツをサワサワして…
え?
そう思った時にはスマホを取ってそれを俺に差し出した。
「臣くん電話だよ」
ニってリスみたいに笑うその顔が堪らなく愛おしいっつーの!
つうか電話より美月のが大事なんっすけどねぇ。
「あーうん。後でかけ直すよ」
「…女?」
「は?」
チラっとスマホを見るとまぁ、女の名前で。
つまりはお店の客って奴。
こうやって営業の為にたまに飲みに行く女もいたことをすっかり忘れてたけど…。
俺はニッコリ微笑んで「お客さんだよ、ただの」そう言って美月の柔らかい頬っぺたをムニュっと摘んだ。
ムウって唇を尖らせる美月は、ほんのり視線を落とす。
「じゃあさっきのギャルもただのお客?」
「そ。ただの客でってだけ。信じてくれる?」
「…ん」
「じゃあハイ、美月からキスして」
唇を指で突くと、恥ずかしそうに背伸びをして、チュっと小さなキスをくれた。