可愛い理由
「あ、うち門限11時だから!それまでにちゃんと家に送れよ?」
しぶしぶ俺と美月を二人にしてくれた直ちゃんに、去り際にそう言われて。
素直に従うべきか、素直に「無理」って言うべきか。
美月を見ると「直ちゃんもういいからっ!」俺の腕に掴まってそう叫んでる。
仕事中にまとめている髪も、今はサラリと下におりていて。
たったそれだけで雰囲気がほんの少し大人っぽくなって可愛い。
「門限に間に合わなかったら責任持って部屋の中まで送るんで!」
俺がそう言うと、やっぱり直ちゃんはムンってした顔で近付いてくる。
だから、美月の手を引いて「逃げろっ!」そう言って軽く走り出す。
「えっ、臣っ!?」
言いながらも美月は俺についてきて。
歩道橋を上っていって、上から直ちゃん達に手を振る美月をギュっと抱きよせた。
有難いことに誰もいない歩道橋。
下の大通りはビュンビュン車が通っているけど、傍に信号があるせいで、この歩道橋を渡る人は少なかった。
「美月…」
甘く名前を呼ぶと美月がトロンっとした目で俺を見上げる。
「臣くん…」
「広臣…」
抱きしめてオデコをくっつけながらそう言うと「広臣…」小さく呟く美月。
俺の腕の中で小さく固まってる美月を本来ならすぐにでも連れて帰ってめちゃくちゃに抱いちゃいたいけど、やっぱりどうしてかできそうもなくて。
たかがキスぐらいで緊張している自分が…―――嫌いじゃないかもしれねぇ。
「たまに呼んで、広臣って…」
「たまに?」
「そう。たまに…特別感あるから…」
「うん、分かった。…――広臣…」
「え、もう?」
クスって笑う俺の腰に腕を回す美月。
服の上からだけど色んな部分が密着してドキっとする。
「初キスだもん、今日。特別だよ」
「…お前何でそんな可愛いの?」
「広臣が好きだからだよ…」
笑っちゃいたくなるぐらいの台詞で。
「可愛い」否定しないんだって。
でも、美月に言われて分かった気がする。
女の子は愛された方が幸せになれるって。
俺が美月のこと好きだから、俺に微笑む美月はめちゃくちゃ可愛いんだって。
それなら納得できる。
「え〜っと、じゃあ…チュウしていい?」
「もう、直ちゃんと一緒にしないで!」
「だな」
二人で見つめあって笑うと、どちらからともなく―――キスをした。