恋の始まり
「あ、こりゃ失敬、余計なこと言ったわ、私!気にすんな、イケメン!」
美月が無言でいるのを見てすぐにゆきみさんがそんなフォローを飛ばした。
気にすんな!って言われても聞いちゃったもんは消せないわけで。
美月の手をグっと掴んでジッとその奇麗な茶色い瞳を見つめた。
ギュって美月が俺の手を握り返した気がして。
「たっくんとはもう完全に終わってるから。今はもう…―――臣くんだけだよ」
何故かそう言った美月は、頬をプウって膨らませてそっぽを向く。
え、なんでそっち向く?
今どんな顔してる?
俺だけってその口が言ったんだよな?
顔、見せろよ、美月。
「そろそろちゃんとデートしてくれてもいんじゃない?駅まで送るだけじゃ俺、物足りねぇ…」
俺の言葉にやっぱり赤くなってムウって唇を尖らせている美月。
その頬をムニュって指で触ると「はぁっ!?」聞こえた声は兄、直ちゃん。
「いやそれ俺の大事な妹だから。気安く触っちゃってるけど、俺の大事な妹なんだよねぇ。俺の許可無しに触って許されると思ってんのか、イケメン!?」
「…登坂ですけど…すいません。けど、直さんだってゆきみさんに触れたいでしょ?好きなら当然のことっすよね?」
…あれ、俺、今なに言った?
―――好きなら当然…。
好きだから触りたい?
ああ、やっぱ俺美月のこと、好きなんだ。
薄々気づいてたけど、やっぱり美月のこと大事なんだ。
「直の負けだな。登坂、美月のこと頼むわよ!?」
ゆきみさんが品定めをやめたのか、やんわりした顔で俺を見上げた。
誰かに頼まれるのって何か重たいって前は思ったりもしたけど。
「はい。大事にします」
守ってやりたい、とか。
大切にしたい、とか。
そんなのは態度で示すものだって思っていたけど。
俺は真っ赤な美月の頬に触れてそこに自分のオデコをくっつける。
「臣っ…」
「黙んねぇとキスすんぞ」
「………」
「黙るのかよっ!」
「だって…」
「今日、帰さないから」
「…ズルイ」
「喋ったな」
かぶっていた帽子を取ってスッと顔の横で止めた。
そっちにいるみんなからは俺達が見えないって分かってる。
だから俺はうるんだ美月に微笑んで、そっとその濡れた唇に小さなキスを落とした―――。