好きな人
「なんでっ!?直ちゃんもゆきみさんも来るなんて言ってないっ!!」
「あはは、吃驚させようって直がねぇ!てっちゃんもいる?」
「うん、いるよ!奥で直ちゃんと話してる!」
「美月が好きな人できた!なんて言うから直が妬いちゃって妬いちゃって…」
マシンガントークを繰り広げるこの女に一歩下がったままの俺。
全く気づかなかったって顔で後ろにいる俺を見てハッとするわけで。
美月は真っ赤な顔で言うんだ。
「ゆきみさん、声デカイ…」
「え、まさかこのイケメン!?美月の好きな人って…」
興味津々って顔で目をランラン光らせてそんな言葉が飛んできた。
この女わざと言ってんの?ってくらいベラベラ話してるけど、全部聞こえてんだよ。
美月はブンブン首を振りながらゆきみさん?の背中を押して「ばかばか!もうっ!」店の中に押し込んだ。
残された俺と美月。
俺に背を向けたまま美月が小さく聞いたんだ。
「今の聞こえた?」
さも、恥ずかしそうに。
うわ、クソ可愛い。
なんだよそれ。
勿論しっかり聞こえてたけど…
「何も聞こえなかったけど?それより誰!?さっきの直ちゃんも、ゆきみさんも…」
分かってるのかどうか、ホッとしたように美月が俺を振り返った。
「直ちゃんはあたしのお兄ちゃんで、ゆきみさんは直ちゃんの奥さん。直ちゃんと店長のてっちゃんとゆきみさんは幼馴染みで、ゆきみさんとてっちゃんは昔付き合ってて、直ちゃんが奪略したんだ!でも今はみーんな仲良し!ふふ。面白いでしょ、あの人達の関係!あたしの大好きな人達なの!臣くんにも紹介するね!」
ニコッと微笑んでそう言われて。
「美月の好きな男として?」
パクパクって口を動かしてる美月。
俺の腕を軽くパシッと叩いて「聞こえてたんじゃんっもうっ!」また真っ赤になった。
もうすげー可笑しくて。
「いやさすがに聞こえないわけなくねぇ?」
クックって肩を揺らして笑う俺の頬をムンって摘むと。
「広臣の意地悪っ!」
そう言って1人で店の中に入ってった。
え、今…広臣っつった!?
ドッドッドッドッドッ…
無駄に心臓が脈打ってるのが分かる。
全身の血が顔に集中するみたいで、カァーって自分が赤くなってるのを感じたなんて。