違和感
それから俺は毎日のように美月の働くカフェ【ベローチェ】に顔を出すようになった。
美月のシフトが終わる時間に合わせて俺も店を出て駅まで送るのが日課で。
進展があったかといえば…―――ない。
何も進んでない。
え、俺ってもしや草食系なの?
そんな風に自分を疑うぐらい美月のピュアな性格を尊重していた。
「美月ちゃん、シフォンケーキ持って帰る?」
今日もいつもの時間にいつもの席に座って待っている俺の耳に入ってきた店長の声。
どうにも相当美月を可愛がっているように思える。
まぁ、仕方無いのかもしんねぇけど。
頬杖をついてその会話を静かに聞いていた。
「いんですか?」
「いーよ。今日ゆきみちゃんと会うって言ってたよね?ゆきみちゃんの分も一緒に…」
「ゆきみさん喜ぶ!てっちゃんのケーキ大好物だもん!」
「だろ!」
あれ…何か違和感。
つーか、「てっちゃん」って…そんな呼び方してたっけ?
土田って「てっちゃん」なわけ?
なんだろ、この敗北感。
俺「臣くん」店長「てっちゃん」…どうでもいいのかもしれないけど、何か腹たつ。
「臣くん」って他人行儀じゃねぇ!?
一人、悶々としながら珈琲をズズっと啜ると、思った以上に喉の奥に流れていって「アッチ」小さく声をあげた。
だからか、二人の視線が飛んできて。
「臣くん、大丈夫?」
すぐに美月が俺の前に来てくれたんだけど…―――「別に平気」口から出たド低い声に自分でもびびった。
美月はそんな俺を見て不思議そうに首を傾げるけど…。
「いいから、早く戻れって」
腕をクイってしてこの場所から美月を追い払った。
心臓がバクバクしていて無駄に呼吸が早くなる。
なんだよこれ。
イラつく気持ちを抑えることに精一杯なのに、カウンターの中では美月と店長が仲良く話していて。
「ゆきみさんがてっちゃんに逢いたいって言ってました!」
「へぇ〜。んじゃ直で俺が届けようか今夜美月の家に!」
「あっは、でも喜ぶかも、てっちゃんの顔見たら!」
ダンッ…。
ダメだ。腹立つ。
「美月、ちょっと一服してくる」
乱雑に煙草を取り出すと、それを咥えて外に出た。