06
しばらくその場から動けずにいた私…。
でも戻らないと隆二くんに変に思われる…そう思い直してクルリと向きを変えて衝立から事務所へと戻った。
私が来るのを待っていたのか、隆二くんはパソコンから顔を上げて私に視線を向けていて。
…もしかして、聞こえてた!?
背中を冷汗がつたう気分だ。
「隆二くん…」
「ユヅキさん…」
同時だった。
私と隆二くんの声が同時に名前を呼んで。
「うん?」
優しく問いかけてくれる隆二くんに対して物凄い罪悪感がこみ上げてくる。
だから…――――「ごめんなさいっ…今、帰しちゃった女の子…きっと隆二くんにチョコを渡すつもりでここに…」フワっと私の腕が引き寄せられて…
「うん、いいよ」
隆二くんに抱きしめられている。
「隆二くん…?」
「ん〜?」
「いや、あの…」
「断ってくれてありがとう」
その言葉にやっぱり全部聞かれてたんだって一気に恥ずかしくなった。
「ごめんねっ私。彼女でもないのに勝手に断っちゃって…すごい嫌な奴だよね、本当ごめんなさいっ」
胸の中でペコペコ謝るものの、隆二くんの腕が私から離れていく気配はなくて。
この展開に無駄にドキドキしているのに、ほんの少し心地よさすら感じている。
「聞いてもいい?」
ボソっと私の頭の上で隆二くんの高音が響いて。
そっと顔を上げた私を見下ろしながら微笑んだままその口を開いた。
「今のって、俺にヤキモチ妬いてくれたの?」
意識が飛びそうな言葉を私に投げた隆二くん。
これは完全に「イエス」だけれど、ここでイエスと言えるだろうか。
こんな展開私の想定外だったから、もう頭の中は真っ白で、自分が何を言い出すのかすら分からない。
でもふと目に入ったカレンダー。
2月14日。
今日だけは素直になるって決めたはず。
きっと今ここでイエスを言っても、隆二くんは私を傷つけることは言わない…気がする。
だからそれを言わせる為に、先に私を抱きしめたんじゃないかって。
「…言わせるんだ…」
顔に血が集中するかのように自分が紅くなっていくのが分かる。
そんな私をちょっとだけ面白そうに見つめている隆二くん。
ニコっと笑って「言わせたくって」なんて言うんだ。
もしかしたらの、確信犯!!
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