05
「ユヅキちゃん、ご馳走様!」
現場のおじさま達の喜ぶ顔はそれなりに嬉しくて。
義理チョコと割り切っているものに関してはよかったなって。
紛れて食べていた隆二くんも「うまっ!」って言った言葉をしっかりと聞いて、もうこの際義理チョコでもいいのかもしれない、なんて諦めの気持ちすら出てくる。
今日まで変わることのなかった私達の関係が、Valentineにチョコを渡すことで変わるとも思えなくて。
見た感じ草食男子には到底見えない隆二くんが、今日まで私に何も言ってこないということはそーいうことで。
フラれる前に気づいてよかったじゃん!
なんて自分を慰めてみた。
「じゃお疲れー」
現場を終えて一息ついたおじさま達がどんどん帰宅していく。
隆二くんはパソコンに向かって今日の現場のレポートをまとめていて。
「じゃあユヅキちゃん、悪いんだけど私もお先に失礼するわね」
事務のお局様が申し訳なさそうに私に言う。
「いえ!お疲れ様でした!」
頭を下げるとお局様はそそくさと帰っていって、事務所内には私と隆二くんだけになっていた。
鍵を持っているのが私だから隆二くんが帰らない限り私はここにいる必要があって。
さっきの今で何となく二人きりって空気が重たい。
席を立って紅茶を入れなおそうとした時だった。
コンコンって事務所のドアを叩く音。
思わず振り返って隆二くんを見ると、私に気付くことなくパソコンを弄っていて。
衝立の向こう側にあるドアを開けると、赤いマフラーを巻いた可愛らしい子がそこに立っていた。
ドキンと胸が脈打つ。
さっきまで来ていたギャル達とは全然違うタイプで、この人が本命の彼女なのかもしれないって思った。
「あの、今市隆二さんまだいらっしゃいますか?」
白い息を吐いてそう聞く彼女。
女の私から見てもめちゃくちゃ可愛くて。
彼女だったらどうせこの後会うはずだよね?
「今市はもう帰りましたけど…」
「えっ!?そうですか」
落ち込む彼女を見てしまった!と思った。
思ったものの、一度口に出した言葉は取り消すなんて出来なくて。
完全に悪女化した私は心の中で何度も「ごめんなさい」って目の前のこの人に謝る。
「あじゃあ結構です、失礼しました」
深々と頭を下げてすぐに私の前からいなくなった。
ズキン、ズキン…って胸が痛い。
ドラマじゃ絶対民衆に嫌われるであろう最低な女と同じであろう行動を自分がするなんて。
「最低…」
小さく呟いた。
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