02
ホワイトボードの文字を見て小さく溜息をついた。
圧接関係の会社の事務を務める私が隆二くんと出逢ったのは一年前のこと。
小さな下請けのうちの会社に新人さんで入ってきたのが隆二くんで。
ガテン系ないかつい外見とは裏腹に、仕事っぷりは至って真面目。
声だったり喋り方だったりすごく優しくて、一番の魅力は優しい笑い方だった。
目が無くなっちゃうくらい細めて笑うその笑顔に、すぐに私は恋に落ちた。
隆二くんは老若男女誰からも愛されるキャラで、行く現場行く現場でいい評判しか貰わなくて。
バレンタインの今日の行き先はお得意様の現場で、1日がかりでの作業のため、直行しているであろう隆二くんに逢えるのは現場を終えて帰ってきてからだった。
勿論会社のおじさん達用の義理チョコはたんと準備していて、それ以外に隆二くんように買ったチョコを隠し持っているんだ。
それでも1日は早いもので、事務のおばさん達と談笑しつつも既に時計の針は夕方5時をさしている。
そろそろ現場を終えた隆二くんが帰ってきてもいい時間だった。
「すいませーん」
聞こえた声に事務所のドアを開けると、そこにいるのは制服姿の女子高生。
私を見てキョトンとしていて。
「なにか?」
「隆二さんいますか?」
「…え、隆二くん?」
「はい!これ渡したくて…」
カサッと後ろ手に持っていたであろう紙袋を私に見せたんだ。
ちょっと待って!
それってチョコレートだよね。
なんで女子高生が?
思いっきり不審の目で彼女達を見る私に「いないんですか?」答えを迫られて。
「まだ現場から戻ってませんが…」
私の言葉に思いっきり顔をしかめた。
そんな顔されてもねぇ。
「隆二いないんだってーどーする?直接渡さなきゃ意味ないよねー!待ってるー?待っててもいーですかー?」
友達と話してんのか、私に言ったのか微妙だったものの、視線が私を見ていたから私に聞いたんであろうと思うけど。
やだよ、帰ってよ。
なーんて当たり前に言えるわけもなく。
「あのでも寒いし何時に戻るか分からないので…」
「あ、じゃあ直接渡したいから、隆二戻ったら連絡くれるように言ってください!」
そう言って何故か彼女たちのLINEのIDが書かれた紙を渡されてしまった。
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