可愛い弟


「ま〜た何かやっちゃったの、ユヅキ」

「…だってぇ」

「…こらー!そうやって可愛い顔してもダメだから!チューするよ、チュー!マジでしちゃうよ、チュー!」


ムウって唇を突き出している臣だけど、その顔は呆れながらも笑っていて。

こうやって場の空気を和ませてくれるのも、臣の長所の一つだと思っている。

嫌な顔しても絶対に助けてくれちゃう啓司だってそう。

結局私たちはみんなを信用していて、それで成り立っているんだと。


「えー臣欲求不満なの!?」

「あのねぇ…」


そう言ったものの、キョトンと固まって私を見つめる臣。


「俺、欲求不満だわユヅキ…。もう何年もヤってねぇ…」

「え!?」

「えっ!?」

「臣ってチェリーじゃないの!?」

「はぁー!?」


さすがに眉間にしわを寄せて私を睨む。

勝手に臣はそういう行為をしたことないって決めつけていたんだけど、違うのかな。

まぁ顔はかっこいいし性格だって人懐っこい。

歌だってめっちゃうまいし…


「ユヅキだから許すんだぞ、今の発言!」

「えへっ!ユヅキに生まれてよかった!」

「…ああもう…。ほんと俺ユヅキには勝てない…」


ハンドルにグダーって身体を乗せて蹲る臣を後ろからそっと撫でた。


登坂広臣は私にとって可愛い弟で。

臣も私を実の姉のように慕ってくれている。

学生のころはヤンチャしていたから時々キレちゃうと手がつけられなくなっちゃうんだけど、それでも事務所の男たち全員元ヤン出身だから、臣が暴れていても何事もなかったように過ごしていたりする。


「可愛いな臣ちゃん」

「帰ったら絶対ぇチューすっからな」

「いいよ〜」

「覚えとけよ!」

「はいは〜い」


そんな暢気な会話は、ガタンって音がしたと同時に終わる。

啓司がさっきのホストを連れて後部座席に乗り込んだ。

次の瞬間、臣が車を発車させて…


「大丈夫!?」


私の言葉に啓司の隣のホストが眉毛を下げて泣きそうな顔で微笑んだんだ。


- 3 -
prev next
▲Novel_top