接触
―――その日から私は深夜のコンビニに通い始めた。
一週間、二週間…と過ぎたある日。
「あ、やべ…」
レジの前でポケットを探っているその人。
チャンス到来!!
そう思って私はスッと横から1000円を差し出した。
「え?」
「よく来てますよね…よかったらどうぞ」
「えでも…」
「私毎日来てるんで、都合のいい時にお返しいただけたら…」
そう言うと、私の顔をマジマジと見て「すいませんじゃあ」1000円を受け取った。
ニッコリ微笑むとペコっと頭を下げる。
そのまま私のレジも終えて外に出ると彼はまだそこにいて。
「自分の名刺です。明日必ず返しますのでこれ受け取ってください」
「いいですよ、あなたの顔毎日見てましたから…」
「…へ?」
「あ。あの…すいません、え〜っと…いつもコンビニ弁当だと栄養偏りませんか?」
「あー…そうなんですけど、どうも料理苦手で…」
「これ、食べてみて?」
そう言って差し出したのはサンドイッチ。
彼は一瞬キョトンとした後慌てて首を左右に振る。
「いやとんでもないですよ!」
「私、この一本奥にあるカフェで見習いやってるんです。それで今サンドイッチの新作考えててね、よかったら毒見して貰えませんか?あ、自分で言っちゃった毒見って…」
てへへって首を傾げて笑うと、彼もあっ気に取られていたものの軽く微笑んだ。
「毒見、なんだ?」
「そう、毒見!」
「ははっ!じゃあ一口貰おうかな…」
「はい、どうぞ!」
私の手からサンドイッチを受け取ってそれを口にする。
何の疑いもせずそれを食べきった彼は「やべぇ…めっちゃうまい!!」ちょっと大袈裟にそう言った。
「ほんとに?」
「うん、絶妙!夜でも全然食える!」
「よかった〜…」
「ありがとう」
「こちらこそ!あの…よかったらお店に食べに来てくれませんか?」
俯き加減で下からさり気なく…
「いいの?」
「はいっ!ご迷惑でなければ…」
「うん、行かせてもらうよ」
「待ってます!」
「うん。あ!名前…教えて?」
「ユヅキです…あなたは?」
「直人!片岡直人」
「直人さん…」
「うん。ユヅキちゃん1000円明日必ず返すから」
「いつでもいいですよ!」
「あはは、サンキュー!じゃあ」
「はい、明日」
軽く手を上げると直人は優しく微笑んで点滅している信号を早足で渡って消えて行った。
「無事接触したな…」
ポンって私の頭を撫でる哲也。
コンビニにいたのは哲也も一緒で。
常連客を装っていつも着いて来てくれていた。
「うん。ちょっと疲れた…」
「プ。これで疲れてたら身体もたねぇぞ!」
「うん、分かってる。てっちゃんアイス食べたい」
「もう買ってあるよ。帰ろう」
私の腰に腕を回してそこに止まっていた車まで誘導する。
ドアを開けると運転手の剛典がそこにいて、「ユヅキちゃんお疲れ!」激励を飛ばしてくれた。