初の大仕事


朝一でアキラと一緒に事務所に入ると一人の女が訪ねてきた。

奥の応接で話しを聞くのは二度目。


「うちのユヅキです。ユヅキがやります」


アキラにそう言われて、目の前の女は私をジロジロと上から下まで舐めるように見つめた。

大丈夫なの?って顔で。

最初の大仕事、失敗するわけにはいかないんだよね、こっちも。


「毎晩鍛え上げられてきてますので、ご心配なく」


そう言ってスッと頭を下げると女は写真をスッとテーブルに出した。

チラっとそこに映された人物を見る。

至って普通のリーマン。


「この人が…」

「ええ、そうです。うちの妹を苦しめた女の恋人。あんな女と付き合っているなんてろくな男じゃないだろうけど…」


イライラ感満載に女が熱弁している。

大事な妹を死に追いやった同僚の女の恋人をハニートラップして、同僚に同じ痛みを味あわせること…―――それが今回の依頼内容だった。

ハニートラップがうまくバレないようになるために、私は毎晩哲也に抱かれ続けてきた。

気持ちの入っていない行為でも愛されているって思えるように。

相手に気持ちを読まれないように…


「できるか、ユヅキ」


ほんの少し心配そうなアキラ。

私をジッと見つめている。


「できます」


私の返事を聞いて一つ深く頷くと、目の前の依頼主に視線を戻した。


「では、相手の心変わりを悟ったら半額頂きます。そして完全に別れさせたら残りの半分もお支払いただく形になりますので」

「ええ、分かったわ。よろしくお願い致します」


丁寧に頭を下げて事務所を後にした依頼主。

ふう〜っと溜息をつく。

ここから先は感情を殺していかないと…そう思うと少し憂鬱な気もするけど、一人前になって早くアキラに認めて貰いたい…―――その一心だったんだ、この時は。


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