優しさ


自分から…哲也にキスをすることもだいぶ慣れた。

哲也に触られることも、愛されることも…。

ここに来た時の約束事は数少ないけれど今の私を作っているものもあって。

シャワーを背に、裸で哲也と抱きあう私はこの先誰かを純粋に愛したりできるのだろうか…。




「どうかした?」


シャワーを終えてベッドの上でボーっとしていたら哲也が私の顔を覗き込んでそう言った。


「どうもしないよ」

「嘘だ。何か考えてるって顔してる」

「…じゃあ考えてる」


何を言っても哲也には勝てない。

この人は人の心を見抜く技を持っている。

楽しいことも、悲しいことも…


「話してユヅキ」

「ただ思っただけ…私この先誰かを愛することができるのかな?って」


シーンとした哲也の部屋。

こういう真面目モードの時に哲也は決して茶化したりしない。

そこは啓司とは違っていて。


「てっちゃんは私のこと愛してないでしょ?」

「………」

「臣もきっとしたいだけでしょ?」

「ユヅキ?」

「あ、違くてね。嫌なわけじゃないよ。いつも優しいし…」


私が俯くと、キュっと哲也の手が重なる。

そのままフワリと抱き締められる。


「不安なのか?」

「分かんない…」

「嫌なら辞めてもいいんだよ。まだ間に合う…」

「やるよ、ここに来た時に、アキラに拾われた時に何でもするって決めたもの!その為にてっちゃんに抱いて貰ってるんだし…」

「ごめんね…ユヅキ女の子なのに…辛いよね…」


哲也の甘い声は何でか少し泣きそうになる。

人に優しくされることを知らずにいた私に、愛を教えてくれたのは他の誰でもない、ここの人達だから…


「女の子って…」

「今日は何もしないでいてあげる…。明日の為に…」


私をギュっと抱き締める哲也だって何だか少し辛そうに見えなくないのに。

なんだかんだで優しいんだって分かってる。


「てっちゃん…」

「ゆっくり休めよ」

「うん…」


子守唄みたいな哲也の甘い声に次第に眠気に誘われて…

深い深い眠りについた翌朝早く、哲也がスッとベッドを抜けて出て行った。


今日から私の仕事が始まるんだと…―――



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