消毒


目を閉じて臣に抱きついていると、何の気配もなく臣がいきなり吹っ飛ばされた。

ソファーの下に転がって蹲る臣を踏み潰しそうな勢いで見下ろしている哲也。


「ユヅキ、ねーんね!」


ニッコリ微笑んでスッと綺麗な腕を私に差し出している。

ここここれはマジな顔だ。

哲也怖いっ!!

私はすぐに立ち上がると哲也の手を取る。


「いい子。シャワー行こっか」


ゆったりとした甘い喋り方が何だか余計に怖くて…


「てっちゃん怒ってる?」


恐る恐る聞くも「なーんで?」…顔は微笑んでいるのに全く目が笑っていないじゃん!

もうここには助けてくれる臣もいなくて。

啓司はきっと部屋で爆睡してる。

お酒飲むとすぐに寝ちゃうからシャワーも浴びずに今頃夢の中。

アキラは部屋に入るとなかなか出てこないし。

あー誰かー!


「ここですんのとベッドで抱かれんのどっちがいい?」


ゴクリと思わず生唾を飲み込む私に拒否権は当たり前にない。

「選ばせてあげるね」って優男を装っているのかもしれないけど、全然優しくなんて見えなくて。


「あの…今日はその、1日並んでたからちょっと疲れております」

「うんでも、抱かれることもユヅキのお仕事でしょう?」


ジッと私を見つめる哲也。

その顔は一般人にしておくのが勿体ないくらい美男で綺麗。

哲也以上に綺麗な人を私はまだ見たことがない。


「てっちゃん怖いんだもん…」

「分かったよ、たく…」


はぁーって大きく溜息をつくとその場でギュッと私を抱きしめる。


「とりあえず広臣に触られた所全部洗って。じゃないと嫌だもん俺…」


ムゥって唇尖らせてそんな言葉。

哲也に言われて思わずドキッとする。


「その前に消毒…」


トンっと壁に背をつけて哲也の美形がドアップで重なる。

一度だけ触れ合う唇。

すぐに離れてこう言うんだ。


「ユヅキからキスして」


ド至近距離で腰に腕を回したままおデコをくっつけて。

心臓の奥がほんのちょっとだけ痛い気がしたなんて。



- 13 -
prev next
▲Novel_top