キスの相図


みんなで連れだって大きな敷地へと入って行く。

俗に言う”シェアハウス”に一緒に住んでる私達。

それぞれアキラの所有するマンションに部屋は持っているものの、だいたいがこのハウスで共同生活を送っていた。

結局私達は一人で居たくないんだって…


「ユヅキ、アイス買いに行こうぜ」


いざハウスに入ろうとすると臣に呼びとめられて。

哲也が臣を振り返って「俺パピコね」そう言う。

ちゃんと戻ってこいって意味。


「哲也さんパピコっすね、了解です」


臣がちゃんと返事したのを聞いてから哲也が私と繋がっている手を離した。

その手を今度は臣が掴む。

フワリと臣の香水が鼻をつく。


「俺を童貞扱いしたこと後悔させてやる…」


耳元でボソっとそう呟かれたんだ。

あ、気にしてたんだって。

むしろ今でも疑ってるけど…

とはさすがに言わないけど。


「だっててっちゃんのがずっとうまいよ…」


って言葉はやっぱり飲みこんだんだ。


臣と手を繋いでコンビニへ行く。

都会のコンビニは思った以上に人が多い。

伝説のホストを誇る臣はこの辺じゃわりと有名で、こっちは知らなくても臣を知る人は多い。

だからよくよく知らない人に頭を下げられている。

今も何だかよく分からないチャライ男が臣を見て後ずさりしつつ頭を下げた。

そんなの完全無視して私達はアイスコーナーへと進んで行って。


「ユヅキどれ?」

「私ソフトがいい」

「エロイな〜お前…」

「…はい?」


一体絶対何をどう見たらソフトがエロイんだって。

そもそも臣の発想のがエロイっていうか…

これだから童貞は…

って言葉はやっぱり飲みこんだ。


臣に全員分のアイスを買って貰ってシェアハウスへと戻る途中、「寄り道しよう」繋いでいた手をグインっと臣に引っ張られる。

辿り着いたのは公園で。

そこにあるのは小さな噴水。

だけどそこには行かないで、ブランコの柵に軽く座った。

突っ立ったままの私の手を引く臣は、下から私を妖艶に見つめている。

ああ、キスの相図だって分かった。

臣の欲しそうな顔なんてもう、見飽きた。

開いた足の間に私を閉じ込める臣の肩に手を置いてゆっくりとその綺麗な顔に近づいた――――




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