勝てない誘惑

「ユヅキって仕事早いよね」


椅子に手をかけたまま反対の手で私の髪を撫でる隆二。

データを保存し終わった私はPCの電源を切ってクルリと隆二の方を向く。


「普通だよ。普通に仕事してたらこれぐらい誰でもできるって」

「山口さんも褒めてたもん。後輩達もすぐユヅキのこと頼るしなぁ…。何か不満。いやユヅキが褒められることは嬉しいけど、できればみんな関心してほしくないっていうか…」


ムウって唇を突き出してちょっとだけ子供みたいに頬を膨らませている隆二。

それを見ている私の心臓は爆音を奏でていて…。


「隆二って、ヤキモチ妬き?」


そう言って突っ立っている隆二の腰に腕を回して椅子に座ったままギュっと腰に抱きついた。

すぐに私の頭を撫でるその手はきっと無意識で。


「あ、もしかして嫌だったりする?そーいう嫉妬…。ごめん俺意識してるわけじゃないけど束縛とかしちゃってたら言って?」

「…嫌じゃないかも…」

「え?」


キョトンと顔を固まらせて私を見つめる隆二の手は、今度は無意識で隆二を見上げる私の頬を指で柔らかく触れていて。


「ヤキモチも束縛も…隆二にされるなら嫌じゃないかも私…」


そう言ってニって笑顔を見せたら隆二が一瞬だけ私から目を逸らした。

すぐにその視線は戻ってきて、腰に巻いてある私の手を掴んで外すとスッとその場にしゃがんだ。

あっという間に私達の距離が近づいて、目の前にくる隆二の顔。


「よかった誰もいなくて」


そう言ってニッコリ微笑んだ隆二は、私の頬に添えた指を唇に滑らせてその上を厭らしくなぞった。

ドキンっと音を立てる心臓。

そのまま隆二の指は私の唇を割って中に入る。

「舐めて」…ってまるで言われたみたいでジッと私を見つめるその瞳は熱く揺れている。

ゆっくりと口の中にいる隆二の指に舌を絡ませると目の前で隆二がニヤっと頬をあげて笑った。

指を動かして出し入れする妖艶な顔の隆二…

なんか物凄くエロイ。

キスすらしていないのに指だけでこんな気持ちにさせる隆二はズルイ。

だって指じゃ物足りなくて…求めてしまいそうになる、自分から隆二の唇を…―――――


「りゅ…じぃ…」

「うん?」


私の言葉を待っている隆二はそう、きっとこの台詞を私に言わせたいんだって。

ワクワクした隆二の目が無言でそう言っている気がして。

結局誘惑に勝てない私は、泣きそうな顔で一言告げたんだ。


「キスして隆二…」


私の言葉に笑いながら隆二が顔を寄せた。



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