誤魔化し

えっ!?

そう思った時にはもう、私は隆二の腕の中にいて。

口端を緩ませて私に顔を寄せる隆二はベッドと同じ妖艶な顔をしている。


「ダメ…」

「俺もだ〜め!」


そう言って私の頬にチュって小さなキスを落とす。

ここは衝立一枚しか私達を隠すものがなくて。

いつどのタイミングで誰がここに入ってくるのかなんて分からないのに、隆二の私を抱く腕は緩まなくて。


「言っちゃう?みんなに…」


ど至近距離でそう言う隆二の熱い吐息が頬にかかって心臓がキュンっとする。


「絶対ダメ!」

「でも今ここでキスしたくない?」

「…ずるいよ隆二。私が拒否できないって分かってて言ってるでしょ?」

「うん、言ってる!」


ヘラって笑う隆二は本当にキスすれすれで喋っていて。

髭が当たってくすぐったくて…

思わず私の方から隆二の頬に手を添えた。

だからか、「ん〜」って目を閉じてキスを待っている隆二の唇にチュって私から小さなキスを落としてしまって。

目を開けた隆二はギラギラした目で私を見たけど、衝立の後ろ、「ユヅキちゃんこれ貰ったから明日配っといて」そう言って山口さんが入ってきた。

至近距離にいる私と隆二を見て変な顔をする山口さん。


「お前ら、距離近けぇな…」

「そうですか?」


隆二がとぼけてそう言って私を見てニッコリ微笑んだ。

すぐに私を離したけど、もしかしたら山口さんに見られてた?そう思うと恥ずかしくて。


「分かりました、わーこれ美味しいんですよね、ラスク!私大好きなんです!さ、隆二くん早く書類作っちゃいなよ。今日も私が鍵当番なんだから!」

「あ、そうっすよね。俺が終わんなきゃユヅキさん帰れないか!」


そう言って衝立を出て事務所に戻る。

うまく誤魔化せたとは思ってないけど、山口さんはちょっと注意しなきゃって思った。

それよりなにより、結局私が隆二との関係を隠せるかって問題なんだろうけど。

隆二が自分の席についてPCに向かうその斜め前の席に私もついて。

現場の恰好してPC売ってる姿が何ともアンバランスなんだけどやっぱりかっこよくて。

私も残りの仕事しちゃおう!って思って隆二の存在を感じながら書類を纏めた。


「あ―――終わったぁ!明日の仕事までやっちゃった…何しよ〜明日…」


冷たくなった紅茶を飲むと「俺の書類も終わった!」そう言って隆二が私の椅子の背もたれに手をかけた。

気付くともうみんな帰っていて、ここには私達二人っきりだ。

トクンと胸が高鳴る。




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