小さなキス

真後ろに感じる隆二の息使いにドキっとしたのは言うまでもなくて。

でも今はこの目の前にいる山口さんをどうにかしないと…って。

だけど何も浮かんでこない私をよそに、隆二が「ユヅキさんちょっとすいません」そう言って右手を持ち上げるとそれを目の前で物色し始めた。


「あ〜…似てるかも…。同じ種類かもしれないっすね、俺のと!これ買ったの彼氏ですか?」

「…うん」

「じゃあ俺と趣味が似てんだユヅキさんの彼氏!」

「…たはは」


隆二はそう言って私の手を離すと山口さんに向って自分のネックレスにかかった指輪を堂々と見せた。


「見ます?山口さん俺の…」


だからだと思う。

さすがに山口さんも隆二のペアリングには興味がないらしく「いや、いらねぇわ」そんな返し。


「いつでも言ってくださいね?俺のでよければ見せますんで!」


そう言って隆二はネックレスにかけてある指輪を大事そうに首に戻した。

山口さんはそんな私たちを見て「まぁ、あり得ないかお前ら二人が付き合うなんて!なぁ!」なんて他の人にもフッていて。


「あ〜喉乾いた。ユヅキさん俺自分で取ってきますね」

「あ、いいって、私行く!」

「んじゃ一緒に行きます」


私の後をついてくる隆二。

給湯室に入って「はぁ〜…」って大きく息を吐き出した。


「すごいよ隆二…私山口さんに絶対バレるって思ったのに」

「あはは、堂々としてたら意外とバレないんだって思ったから!まぁ俺はバレてもいいけど…ユヅキを一人占めできるから…」


そう言ってシンクに腰かけて向い合う私の髪を指ですくう。

そのまま腰に腕を回して私と引き寄せると簡単に顔を寄せて。

どうしよう?って思いながらも目を閉じてしまった私に、隆二の小さな触れるだけのキスが落ちた。

音を立てないように触れるだけの小さなキスなのに胸の奥がキュンっとして、思ってしまう…。


「隆二…もっとして…」


半分無意識で出てであろうその言葉に、言ってからハッとした私は身体の芯まで熱くなって。


「う、うそうそ、今の無し!」


慌てて首を振ると「ユヅキって、本当大胆だよね…。俺の心臓どうしてくれるの…」なんて眉毛を下げる隆二。

まさか自分がそんな甘い台詞を言うなんて…。

隆二と二人っきりの空間にいると、ここが会社だってことすら忘れてしまいそうで。


「もう、戻らなきゃ!」


そう言ってクルリと給湯室から出ようとした私の手首を、隆二がギュっと掴んだんだ――――。




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