初キスの思い出

「あ、これも!」


お酒も買っておつまみにチョコレートを手に取った。


「好きだよねチョコレート!いつもユヅキのデスクに乗ってるよなぁ」


髭を指で触りながらアーモンドチョコを手にして「これもいい?」そう言って籠に入れた。


「隆二も好き?」

「一緒に食べようと思って」

「え?」

「俺が食べさせてあげるね」


ポンポンって隆二の手が私の頭を撫でる。

だから思い出した、バレンタインの日を。


「初キスの思い出…」


ニヤって口端を緩める隆二にカァーっと紅くなるのが分かった。

勿論私達二人しか分からない合言葉みたいなものだけれど、そーいう会話を楽しめる隆二を愛おしく思う。

何も言えなくなった私の肩をギュっと抱いて「照れてるユヅキも可愛いよ」そう言ってチュって頬に小さなキスを落とした。


「…隆二…」

「ん?」

「恥ずかしくないの?」

「なんで?」


…聞いた私が馬鹿だった?

勿論愛を隆二全部から感じられて嬉しいけど、こういうことに正直慣れていない私は一々ドキっと反応してしまうわけで。

見上げる私を目を細くして微笑み返す隆二に意味もなく胸がドキンっと高鳴る。


「私慣れてないっていうか…」

「嘘だ!」


思わず声を荒げた隆二。

でも次の瞬間珍しく照れた顔でほんの少しだけ鼻の下を伸ばしていて。

私の髪をスッと指で救いながらそっと目を逸らした。


「さっきの…」

「え?」

「会社でユヅキ…俺のことすげぇ煽ってさぁ…あの時のユヅキ思い出すだけで…ヤバイ…」


何がヤバイの?って…

思わず隆二の視線を追うと、たどり着いたそこ…隆二の隆二…。

別に今はモリっとしている訳じゃないけれど、隆二のヤバイの意味が分かった。


「もう!」


照れ隠しにパシンって隆二の腕を叩く。

あははって笑いながらカートを押す隆二はそのままレジまでいくとすんなりと財布を出して支払をすませた。


「隆二、私も払うよ…いつも出して貰って…」

「いいよ。知ってるでしょ俺がいくら貰ってるか!」


そりゃ給料計算も仕事のうちだから知ってるけど。

ちょっと不満気な顔を見せていると、ポンって私の頭に手を乗せて。


「一緒に住んじゃう?」


不意にそんな言葉が届いた。


「…え?」

「そしたら財布も一緒にして…あでも住所変わったらそれこそ会社に連絡しないとダメか〜」


首を傾げる隆二をただ見つめる私。


「とりあえず後で話そうね」


バイクに乗せられて、消化不良のまま走り出した。



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