大事な笑顔

真っ直ぐに私を見つめる彼女は、責めているというよりは納得している…ように見えなくもない。

ただあの日、隆二がいたのにいないと嘘を言ったのは私で。

彼女の想いを踏みにじってしまったんだって。


「ごめんなさい」


だから突然頭を下げた私に、「ユヅキ何してんの!」隆二の腕が私を揺する。

隆二を見ると眉毛を下げて私を見ていて。


「バレンタインの日、本当は隆二いたんです。だけどいないって嘘ついたの私…どうしても取られたくなくて…」


少しだけ考えるような仕草で視線を外した隆二だけど、すぐに戻ってきて小さく息を吐き出した。


「ユヅキのせいじゃない。俺がユヅキを好きになっただけだよ。結衣もそれは分かってる…」

「答えは変わらない?ってことね、隆二…」

「そうだよ。俺はユヅキ以外とは付き合えない」


無言の私にそんな会話が届く。

やっぱりこの人は隆二のことを…

選ばれた私がどれほど幸せかということを、改めて実感する。

こうやって仲良くスーパーのカートを押すことすら、許されない人が沢山いたんだと。


「ごめんね、結衣。ユヅキ行こう」


ポンっと隆二の手が私の肩を叩いてから一歩踏み出した。

野菜売り場でジャガイモを手に取って「新ジャガだ、これにしようか!」優しく微笑む隆二。

私がこんな顔してちゃ隆二が困るっていうのに気持ちが上がらなくて。


「ごめんね隆二…」


ボソッと呟いたら隆二がちょっと怒ったように見えた。

カートを止めて見つめ合う私達。


「何で謝るの?」


口を開いた隆二はやっぱりちょっと怒っている。


「………」


だけど隆二の言うように、どうして謝ったのかも分からない。

人の気持ちに間違いも正解もなくて。

どーしようもできないことなんて普通にある。

それが恋愛となると余計に多く。


「俺言ったよね、ユヅキのせいじゃないって。俺がユヅキを好きなことをユヅキに否定されたら堪んないよ…」

「そんなつもりじゃ」

「じゃあはい、笑顔!俺達こんな顔のまま帰っても楽しくないでしょ?」


プニッて隆二の指が頬を緩く摘んで。

私達が幸せであると同時に、どこかで傷ついて悲しんでいる人もいるということを知った。

でもこればっかりは仕方のないことで。

隆二の言う通り、私達が幸せであることが意味のあることなんじゃないかって。

気持ちがスーッと軽くなった気がする。


「うん!」


私が答えると、やっといつもの隆二の笑顔に逢えたんだ。



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