大人の階段





「わたし、変だった!?」

「いや」


そう言うとシャーペンを置いて頬杖をつく臣。

大きな目でジッとわたしを見つめながらその口を開いたんだ。


「何となくゆきみの声が聞こえた気がして。俺の事呼んだろ?」


何となく…なのに、自信満々にそう言う臣が可愛くて。

すごく嬉しい。


「あは、すごい自信だなぁ臣…」

「岩ちゃんに何か言われた?」


また机に寝そべっている岩ちゃんに一度視線を向けるけれど、すぐにわたしに戻ってきて。

臣が気づいてくれたってことでわたしの中にあったモヤモヤは少し解消された。

わたしを心配そうに見つめる瞳はいつだって真剣で。

岩ちゃんの想いを臣に言ったらどうするんだろうか?

きっと奈々を好きな臣は、岩ちゃんを許せない?


「何でもないよ」


そう言ったわたしを疑いの目で見る臣。

隆二ならそんなに突っ込んで聞かないことも、臣には通用しないってことも分かっている。

でもやっぱりわたしの岩ちゃんへの気持ちもまだ知られたくない。

これが恋なのかも分からないし。

岩ちゃんの気持ちだってわたしの口から言っちゃえるもんじゃないって思う。


「何かあったら言えよ」


中学までとは違うその返しに、臣も大人になっているんだって、思った。



そうしてお昼休みを迎えたわたし達。

お昼休みはわたしと臣が隆二と奈々のクラスに出向いて四人で食べるのが日課で。


「俺も一緒に食ってもいーい?」


子犬ばりの笑顔でわたしに言った岩ちゃんの誘いを当たり前に断れなかった。


「岩ちゃんあんまりいい噂聞かねぇーよ、女関係!ゆきみはダメだから」


シッシって追い払うように臣がわたしを壁側に追い込んで歩くものの、岩ちゃん足取りは軽くて。


「すごいねーお前ら!すごい熱い友情だねぇ!」


なんて感心すらされている。

岩ちゃんの女関係の噂なんてわたしは全く知らなかったのに、臣がそれを知っていたことすら驚きで。

わたしにしろ奈々にしろ、恋人は臣と隆二のOKがでない限り許されないのかもしれない、なんて軽く思ったんだ。

確かに臣や隆二の彼女になる子はいい子であって欲しいと思う。

そんなことを考えながら奈々達のクラスに入った瞬間、わたし目掛けて野球ボールが飛んできた!!!





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