岩ちゃん




【side 奈々】



「キャアッ!!!」


聞こえたゆきみの声に身体が固まる思いで。

お昼休み。

臣と一緒にあたしと隆二のクラスにやって来たゆきみが、ちょうどクラスに入ろうとした時、教室内でキャッチボールをしていたボールがゆきみの方へと飛んでいった。


「危ねっ!」


パシンって、危機一髪ゆきみに当たる寸前で球を素手で受け取ったのはうちのクラスの級長の直人くん。

飛ばしたのはエリーで、あたしはすぐにゆきみに近寄ってその背中に手を添えた。


「ゆきみ大丈夫!?」

「ごめんねっ!大丈夫だった?」


慌てたようにそう言う直人くんと、走ってくるエリー。


「ごめんっ!大丈夫っ!?」


二人でゆきみに謝罪するも、顔をあげたゆきみは何だか真っ赤で。

目の前にいる直人くんから一歩離れた。


「エリーも直人も危ないだろ!教室内でキャッチボールなんて金輪際禁止にしてよ!」

「次やったらマジで許さねぇから俺ら」


隆二と臣が立て続けに怒りをあらわにして。


「だ、大丈夫!わたし平気!ぶつからなかったし!」

「ごめんね、うちのクラスで。隆二の言う通り教室内でキャッチボールは危険だよ直人くん」


あたしの言葉に直人くんとエリーはヘコヘコ頭を下げて謝った。


「じゃあお弁当食べよっか、ゆきみ!」


あたしの言葉に頷くゆきみの後ろ、目が合ったその人はニコッと微笑んだんだ。


「え誰、ゆきみの後ろにいるの」


あたしがそこに視線を向けると、思い出したかのようにゆきみも振り返って。


「忘れてた!岩ちゃん!岩田くんうちのクラスのお友達。一緒にお昼食べたいって」

「初めまして奈々ちゃん。よろしくね」


スッと綺麗な手が伸びてきた。

例えるなら王子様みたいなキラキラしたオーラをまとっていて。

でも笑うと可愛い。

伸ばされた手を握り返そうとした瞬間―――――「握手はなし!」隆二があたしの手を引いたんだ。


「やっぱりダメなんだ」


分かっていた風な言い方で。

だからゆきみの時も臣が止めたんだってすぐに分かった。


「今市隆二、よろしくね岩ちゃん!噂は臣から聞いてるよ」


…どんな噂なんだろう?

あたしやゆきみの知らない話が幼馴染み男子二人にはきっと沢山あるんだって。

そしてあたしとゆきみしか知らない話も、いっぱいある。


そうして5人で机を囲んでお昼を楽しんだ。



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