以心伝心
「髪、可愛い」
そう言われたいからじゃないけど、そういうとこよく気がつく岩ちゃんだから、もしかしたら髪型のこと何か言ってくれるかな?
そんな期待が100%なかったわけじゃない。
そしてきっと、他の誰でもない、岩ちゃんに気づかれたかったんじゃないかって…
「ありがとう」
わたしの言葉に優しく笑みを浮かべる岩ちゃん。
このドキドキはやっぱり恋なんだろうか…。
授業開始のチャイムが鳴ってみんなが席に着く。
隣の席の臣は、寝ちゃいそうに見えるけどわりと真面目にノートをとっていて。
逆に反対側の隣の岩ちゃんは、堂々と1時間目から机に伏せって眠っていた。
前の席の健二郎は教科書の中で別の釣り雑誌を見ていて、そんな健二郎の横で呆れた顔を見せている直己くん。
うちのクラスの級長である。
直己くん背高いなぁー。
ボーッと見ていてると、コンッて机を叩かれて。
クルリと顔を向けると、机に寝そべったまま岩ちゃんがわたしを見ていて。
「なに?」
声に出さずに口パクで言うと、岩ちゃんはルーズリーフにサラサラとシャーペンで文字を書いてわたしに見せたんだ。
【ゆきみちゃんの幼馴染みの奈々ちゃん、彼氏いる?】
…―――――岩ちゃんの口から奈々の名前が出てくるなんて思いもしなくて。
心臓がギュッと締め付けられるようだった。
好き、なのかな…奈々のこと。
隆二や臣と並んで歩いても決して引けを取らないわたしの自慢の親友であり幼馴染みである奈々。
まだ高校生活が始まって1ヶ月とたっていないというのに、クラスも違う奈々を見つけた岩ちゃん。
美人だから目立つし、岩ちゃんじゃなくても奈々を可愛いと思ってる人はきっと沢山いる。
臣も隆二も告白を断ってきたけれど、奈々も今まで一度も特定の恋人なんて作ってこなくて。
何となく奈々は隆二を好きなのかな?って思っていて。
【いないと思う】
結局嘘なんてつけないわたしは、岩ちゃんの文字の下にそう書き加えたんだ。
わたしの文字を見てホッとしたように微笑む岩ちゃん。
それを見ているだけでやっぱり胸の奥がチクッと痛くて。
臣、助けて―――――
気づくと知らぬ間にそんなことを願っていて。
「ゆきみ…」
名前を呼ばれて振り返ると臣が真っ直ぐにわたしを見ていて。
「どうした?」
小声で聞かれて、わたしの声が届いてことに嬉しさを感じてならない。
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