最悪なこと
カチカチ…カチカチ…―――
時計の秒針がやけに耳に入る。
いつも一緒にいる他の3人がいないってだけなのに、この部屋は何だか寂しくて。
さっそくLINEの4人部屋を開いた時だった。
「ゆきみ…」
聞こえた声に布団から顔を出した。
そこにいるのは臣で。
「え、臣学校は?」
思わず起き上がってそう聞くわたし。
すぐに足元にかけてあるフリースを取ってそれをわたしの肩にかけてくれて。
それからわたしを見て横にしゃがみ込む臣。
「昨日、直人と何があった?」
ボソって一言そう言ったんだ。
…それ聞く為に戻ってきたの?
そう思いながらも臣が今ここにいるってことは物凄く嬉しくて、同時にやっぱりわたしは、この先どんな結果が待っていても、4人一緒にいられたらいいのに…そう思わずにはいられない。
「…言いたくない…」
臣に心配をかけたくないなんて思いよりも、真実を聞いて臣が傷つくんだろうか?なんてほんの少し考える。
確かにわたし達に流れているものは深愛で。
それが本物の愛か偽物の愛かといえば本物で。
それが真実の愛か、それとも情の愛なのかは分からない。
だけど、確実に直人くんを責めるってことだけは分かってる。
それで臣が悪者になることも嫌なんだ。
断固口を割らないわたしを見て臣が小さく息を吐き出した。
「考えたくねぇんだけど…最悪な事だけは…」
泣きそうな顔でそう言う臣。
臣の言う”最悪な事…”が、わたしが昨日直人くんにされたキスだというのなら、どうしたらいいんだろうか。
「臣には…――関係ない…」
こんなことが言いたい訳じゃない。
でもこんな言葉しか浮かんでこなくて。
わたしの言葉に傷ついた顔をする臣。
どうして?
臣も奈々が好きなはずなのに。
わたしのこと、そんな目で見る意味…ないよね。
「…分かった」
納得いかないって顔で、でもそうやってわたしの言葉を尊重してくれる優しい臣。
スッと立ち上がって鞄を持つと臣はまた部屋を出て行こうとして…
「待って!!」
気付いたらそう叫んでいた。
ドアノブに手をかけた臣が足を止めてわたしを振り返る。
「…――キス、して…臣…」
俯いたままそう言うわたし。
「…え?」
一言そう呟いて止まったままの臣は、何も言わないわたしにゆっくりと近寄る。
ドクンドクン…って胸が半端なく脈打っていて。
スッとわたしの脇にしゃがみ込んだ臣の大きな手がわたしの頬にそっと触れた――――
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