特効薬




「隆二にも大丈夫って伝えて!もうわたし寝るから…」

「うん、分かった」

「あいつまだ寝てんのかよ、たく…」


面倒そうな声を出す臣は、立ち上がってもう一度わたしを見る。


「なるべく早く帰るから。何かあったらすぐLINEしろよ?」


相変わらず心配症な言葉をくれて。

同じように「無理しないでねゆきみ」そう言う奈々の腕を引いてこの部屋から出て行った。

その3分後ぐらいに慌てて隆二がわたしの部屋に入ってきた。

朝が弱い隆二は、パンパンに顔がむくんでいて。


「ゆきみ大丈夫?」


さっきまで奈々がいたそこに同じように屈んでわたしに言った。


「隆二大丈夫だよ。わざわざ来てくれなくて大丈夫って奈々に聞かなかった?」


わたしがそう言うとムスッとして頬を膨らませるわけで。

珍しくこんな風に怒り顔の隆二を見た気がする。


「聞いたけど毎朝ゆきみの顔見ないなんて俺無理だよ。心配ぐらいさせてよ」


そう言ってわたしの手をキュッと握った。

そのままその手を自分のオデコに当ててそっと目を閉じる隆二。

綺麗な顔に思わず見とれるほど。


「隆二…」


わたしが名前を呼ぶとすぐに目を開けて優しい瞳をくれる。

右手でわたしの髪を優しく撫でながらその手をゆっくりと頬に移動させて…

チュッて繋がってるわたしの手の甲に甘い唇を落とした。


「特効薬つけといたから!」


そう言ってニッコリ微笑む隆二。

優しい隆二にわたしも思わず笑顔になって。


「うん!ありがと」


小さく言った。


「今日はボイトレ休むから、早めに帰るね」

「ダメだって休んだら。奈々が来てくれるから大丈夫!隆二はボイトレ行ってきて」

「だーめ!ボイトレよりもゆきみのが大事!マジですぐ帰るから、おとなしく寝ててね」


クシャって前髪を触る隆二。

意外と頑固な隆二はきっとこの言葉を曲げる事はないんだろうなって分かるから素直に頷いたんだ。




―――――でも。

この夜隆二がわたしのところに来ることがないなんて、そんなこと知らずに静かに目を閉じた。



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