隠した本心
無言でわたしに顔を寄せる臣は寸前で目を閉じた。
唇が触れ合うその時、スッと顔を下げて臣の肩を手で押した。
「冗談だよ、臣…ごめん…」
頭を下げて臣を押すわたしの手をギュっと握りしめる臣。
「何があったんだよゆきみ…。直人にキスされたの…?」
臣が吐き出すように言う言葉に無言で首を左右に振るわたし。
「そんなこと、されてない…」
「じゃあなんで…」
強めの口調はそこで止まって…そのまま言葉は途切れた。
じゃあなんで、俺にキスしてって言ったんだよ?
臣はきっとそう続けるつもりだったんだろうって。
臣を消毒扱いしようとした自分も嫌で。
奈々のことが好きに違いないってそう見える臣なのに、わたしの言葉も全部受け止める臣が何を考えているのかも分からなかった。
「ごめん、もう行って…」
「ゆきみ、こっち向け」
ずっと臣の前で下を向いているわたしにかけた臣の言葉に仕方なく顔をあげると、臣は真っ直ぐにわたしを見ていて。
その真剣な瞳に、胸の奥が熱くなる…。
物凄い勢いで早鐘を打つ心臓にカアッと血が上るみたいに身体の神経全部が臣に集中する。
「なんでそんな辛そうな顔してんだよお前…。黙ってないで何でも言えよ…俺が受け止められないとでも思ってるわけ?」
「………」
「ゆきみ…」
わたしを抱きしめようと手を伸ばす臣をまた止めて。
「学校行って、遅刻しちゃう」
そう言うことしかできなくて。
これ以上ここにいられると、臣に甘えてしまいたくなるから。
相変わらず納得いかないって顔で、それでもやっぱり立ち上がってわたしと距離を作る臣。
「帰りに寄る…」
そう言って臣は今度こそ本当にわたしの部屋から出て行った。
布団に潜ってスマホを裏返しにした。
ただ胸がドキドキしていて。
浮かぶ奈々の顔にそっと目を閉じた。
馬鹿みたい…
臣を試したんじゃなくて…
本当の本当は自分の心を試したんだって。
臣への気持ちが…―――――止まらなくなっていく自分自身の心。
幼馴染で親友の奈々だってきっと、臣を想っている。
それが恋なのかは分からないけど、何でかこの気持ちは絶対に言っちゃいけないって思うんだ。
奈々の為だったら、臣への気持ちも抑えられるって、そう思い込んでいたんだわたしは。
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