優先事項




「直己くんありがとう」


そう言ってマンションの前で止まった。

11階にある四つの家がわたし達幼馴染みの家で全てがベランダで繋がっている。

あそこにいけばきっと誰かがいる。


「大丈夫?玄関まで行こうか?」


心配そうにわたしを見下ろす直己くんに首を振って断る。


「ゆきみ?」


そうしていたら不意に後ろから名前を呼ばれて。

そこにいたのは部活帰りの臣。


「臣っ」


わたしは直己くんから離れて臣の腕を取ってそこにギュッと絡みつく。

途端に直己くんを睨みつける臣。

直己くんは地味に首を振っていて。


「臣違うの、直己くんは送ってくれた」


わたしの言葉に「直人はどうした?」ド低い臣の声に俯いた。

臣がイライラしてるのが分かる。


「話したくない」

「ふざけやがってあの野郎」


チッて舌打ちが臣から聞こえたけど、直己くんがそんな臣をグッと腕で押して。


「ゆきみちゃん優先だろ登坂」


そう言うんだ。

直己くんはあれから何も聞かずにただ送ってくれただけで。

直人くんとのことも何も聞かれなかった。

それなのに…

わたしの気持ちまで優先してくれて。


「分かってる。ありがとう直己!ゆきみ歩ける?」

「うん。直己くん本当にありがとう」

「また明日ね!」


軽く手を上げて元来た道を軽やかに戻って行く直己くんの背中に無言で小さく頭を下げた。


そのまま臣に腕を引かれてマンションのエレベーターに乗った。

グイッと繋がってる部分を引き寄せてすっぽり臣の腕の中におさまっていて。


「もう直人とは会わせねぇぞ」


そう言って強く臣に抱きしめられる。

この温もりに安心してホッとして張っていた気がとけていくのが分かった。


「臣…」

「他の男になんて絶対ぇ触らせねぇから」


こんなにくっついてるのに、臣は全然嫌じゃなくて。

むしろもっと触って欲しくてギュッと臣の背中に腕を回した。

ほんの一時、エレベーターが11階につくまでずっと臣の温もりに包まれていた。


「とりあえず飯食って風呂入ってこい」


そう言われてわたしの家に一緒にあがりこむ臣。

頷くわたしを見てそのままベランダから自分の部屋に戻る臣は、途中で「奈々!」そう呼んだ。

ベランダに奈々がいるんだって。

だからわたしは立ち上がって臣の後を追ってベランダに出る。

そこには隆二もいて。




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