ファースト・キス
目の前が真っ暗になって、直人くんが食べてるストロベリーの味がふんわりとわたしに移った気がした。
でもこれはダメだろ。
これは反則だろ。
「やだ」
そう言って直人くんから離れた。
真っ赤な顔でわたしを見て「ごめっんっ」そう言って頭を下げる直人くん。
謝ったって許さない。
わたしはアイスをバンッて置いてそのままお店を出た。
唇を手で拭ってストロベリーの味を消す。
ゴシゴシって何度も何度も拭ってるけどその味はなかなか消えなくて。
直人くんが慌てて追いかけてきてわたしの腕を掴む。
「ゆきみちゃんごめんっ!マジでごめんっ!」
「やだっ触らないでっ!直人くん酷いよっ、キスなんて酷いよっ!わたしのことそんな軽く見てたのっ?」
「ちげえよっ!そんな風に見てないっ!俺が我慢できなかっただけっ。ゆきみちゃん可愛くて、だから」
「だからキスしていいの?わたしファーストキスだったよっ!!」
こんなんだったら臣か隆二にされた方がよかったよ。
そんなくだらないことまで思った。
直人くんのこと少しいいなって思っていたはずなのに、結局恋人の距離には届かなくて。
「本当にごめんっ。お願いっ一人で帰らないで!ちゃんと送らせてっ」
断固としてわたしを離そうとしない直人くん。
それでも腕を振り払おうとしていると「ゆきみちゃん…?」声に振り返るとうちのクラスの級長直己くんがこっちを見ている。
「直己くん…」
「どうしたの?」
わたし達がもめてることを察したのかこっちに近寄ってきてくれて。
「片岡?」
「ああ、うん」
直人くんを見て怪訝な顔を見せる直己くんは、わたしが近づくとニッコリ笑顔をくれて。
「登坂は一緒じゃないの?」
そう聞くんだ。
いつもクラスだと臣が一緒だから。
「うん。臣は部活で、直人くんと映画観てた…」
「そっか!帰るの?送ろうか?」
見ると細い目でしっかりとわたしを見ていて。
「いい、の?」
「まぁ暇だし。ゆきみちゃん一人にしたら登坂に何されるかねぇ…」
「ありがとう直己くん」
助かる…って言葉は言わなかった。
直人くんだって反省してるって分かってる。
分かってるけどそんな簡単に許せるもんじゃない。
わたしを見つめて「ごめん…」小さく呟く直人くんに「今日はもう…」そう言って目を逸らした。
やっぱり臣と隆二がいないとダメなんだろうかわたしは…。
今すぐ奈々に逢いたいって思った。
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