曇り顔




「奈々っ!」

「ゆきみ…」


顔が見たくて、声が聞きたくて、話したくて…―――――

目の前にいる奈々は、まるでわたしと同じような曇った顔でわたしの腕をギュッと握り締めたんだ。


「奈々…」


隆二を見るけど奈々の曇り顔の訳を知ってる風には見えなくて。

ちょっと様子がおかしいと感じたのか、隆二も心配そうにわたし達を見ていて。


「奈々も、何かあったのか?」


臣が奈々であり隆二を見つめてそう聞いた。

でも奈々も…って言った臣の言葉に、隆二が顔をしかめて。


「ゆきみも…何かあったの?」


浮かぶ直人くんの顔と温もりに、身体が熱くなっていく気がした。


「ゆきみ?直人くんと映画どうだった?」


奈々が顔を覗きこんで聞いて。

だから心が揺れる。

今ここで真実を話してしまったら、臣は確実に直人くんのところに乗り込んでしまうんじゃないかって。

言えない。

言えるわけない。

でも一人で抱えているのはとても辛い。


「あ、うん。楽しかった…アイス食べたらお腹痛くなっちゃって…」

「え?大丈夫!?」


隆二がわたしのお腹を触る勢いで近寄ってきて、頭にポンッて手を乗せた。

その温もりに安心すら生まれる。

やっぱりわたしはこの温もりがいい。

他の誰かじゃなくて、臣であり隆二がいいんだって。


「うん大丈夫だよ!奈々は?バイト何かあった?」

「ないよ。いつも通り!」


ニッコリ微笑む奈々。

その笑顔の裏の悲しみに気づかない程馬鹿じゃない。

隆二となんかあったと考えるのは難しくて。

隆二に限って奈々を曇り顔にすることがあるわけなくて。

じゃあ「お店に誰か来た?」…そう聞いたわたしに奈々の顔がピクッと動いた。


「え、来てないよ。帰りに隆二が迎えに来ただけ」

「本当に?」


奈々の言葉の後、ほんのり疑いの目でそう聞く臣。

でも奈々は動じることなく頷いて。


「あたしお風呂入ってくる!今日見たいドラマあるの!」


…四人の距離が近すぎて、奈々と二人で話したいことも、ここでは言えないことに今更気づいた。

言わない方がいいこともあるってそう言い聞かせてわたしも自分の部屋に戻ったんだ。



その夜、直人くんから謝りのLINEが沢山きていたけど、何も言えずに翌日を迎えた。







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