love or like




【side 奈々】



歌手を目指している隆二は、ほぼ毎日ボイトレに行っている。

あたしは家の側にあるケーキ屋さんでバイトを始めたばかりで。

今頃ゆきみ、楽しんでるかなぁ…

楽しそうな顔が浮かんだものの、それはすぐに消えて。


「岩ちゃん!どうしたの?」


ケーキ屋さんの前に自転車を止めて中に入ってくる岩ちゃんに思わず声を荒らげた。


「暇だから奈々ちゃんに会いにきた!バイト何時まで!?送るよ危ないから」

「帰りに隆二が寄ってくれるから大丈夫だよ」

「げ!マジで!?どんだけ守られちゃってんの、あの二人に!」


岩ちゃんにはあたし達四人の絆は全く通じないみたいで、こーいう事実が発覚する度に顔をしかめるんだ。


「じゃあ隆二が来るまで独り占めしちゃお」


そう言ってお店の端にあるカウンターに鞄を置いてショートケーキと珈琲を頼んだんだ。

残念なことに今日に限ってお客さんは少なくて、あたしも岩ちゃんがいてくれて話相手にはちょうどいいなーなんて思った。


「あのさ、ゆきみちゃんの話はいいからさ、奈々ちゃんのこと聞かせてよ」


さっきからゆきみの話を無意識でしていたのか、岩ちゃんに言われて黙り込んだ。

でもそんなこと言われてもあたしの話なんて何一つ浮かばなくて。


「臣と隆二、本当はどっちが好きなの?」


鋭い質問に胸がグッと痛くて。

真っ直ぐな目で見る岩ちゃんは、見た目よりもずっと男らしい性格なんだと。

ニコニコしていて優しそうに見えても、その芯はしっかりしているんだと。


「どっちも好きだけど」

「それってlikeでしょ?俺が聞いてんのはlove方。愛情持って接してんのは、どっちなの?」


愛情持って…って。

そんなこと…。


「考えたことないよ。あたしにはどっちかなんて選べないよ岩ちゃん」


何となく煮えきらない感じで岩ちゃんが「ふぅん」って言った。


「俺にしない?奈々ちゃん」

「岩ちゃ…―――」


目の前に岩ちゃんのドアップがあって。

気づいたら生クリームの味が唇に移っていて。

思いっきり岩ちゃんの胸を手で押した。


「帰って…もう帰ってよっ!!」


怒鳴るように言うと、唇をペロリと舐めた岩ちゃんは「マジで考えて」そう言って帰って行った。

その声に吃驚して、お店の中から奥さんが顔を出した。


「すいません、何でもないです」


泣きそうな顔を逸らしてそっと手の甲で唇を拭った。



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