キミの涙に口付けを

(「アナタと見上げた夜空は」、「キミと過ごした季節」の続編/見た目不良×平凡/ハルト視点/シリアス/悲恋)















「あ、あの、好きです!」

 可愛いに分類されるだろう女が顔を赤らめ、上目遣いで想いを告げる。どれだけ可愛くとも、全く興味の湧かない対象だ。

「俺、好きな奴がいるから」
「ぇっ、だ、誰なんですか!?」

 誰だっていいだろ別に。どうして言わなくちゃいけねぇんだよ。俺は冷めた目で女を見下ろした。睨んだわけではないが、女はひっと小さく悲鳴を上げて青褪める。それすらもイラついて思わず舌打ち。

「ご、ごめんなさい!」

 涙目で走り去っていく女から直ぐに視線を逸らし、頭をがしがしと髪を掻いてその場に胡坐を掻く。空を見上げ、そろそろ冬だなとぼんやり思った。
 セツがいなくなってからもうすぐ一年。俺はまだあいつのことが好きだ。いや、あいつ以上に好きになる奴なんてきっといないだろう。
 それにしても、と溜息を吐く。一度優しくしてみれば、実は俺は恥ずかしがり屋なだけだと勘違いした奴らが出てきて、やたらと絡まれるようになった。別に俺は一人でいるのが好きだったわけじゃないから普通に会話をしていたが、最近ウザくなってきた。だからこうやって告白してきたやつには冷たくあしらうのに、何故か後を絶たない。それどころかそういうところが良いと言う奴もいる。Mかよ面倒くせぇ。
 再び溜息を吐いてセツの残したペンダントにそっと触れた。








「ハルト、起きてってば、ハルト」
「ん……んだよ、うっせぇな…」
「ハルト、僕だよ」

 柔らかな声に一気に覚醒して目を見開く。目の前には、恋焦がれて止まなかったセツの姿。俺は目を見開いたままその姿を見つめ、恐る恐る手を伸ばす。一度も触れなかったセツの頬に辿り着いた手は、セツの手に重ねられた。

「セツ…セツ、」

 確かめるように呟くと、セツは微笑む。ずっと、ずっと会いたかった。会いたくて仕方なかった。

「いきなり消えちゃってごめんね」
「お前はやっぱり、…」
「うん。僕は雪だった。冬だけに存在することを許されていたんだ」

 言わなくてごめんね、と悲しそうに笑むセツの体を引き寄せて抱き締める。

「いい、別にいい」
「ハルト……」

 ぎゅうっと抱き締める。もう離したくない。セツ、と呟くと、セツは俺の背中をあやすように優しく叩いた。

「去年言った通り、僕はハルトのことが好きだよ」
「俺も、俺もお前のことが好きだ」
「……うん、有り難う」

 体を離して見つめると、セツは苦笑した。その表情に俺は首を傾げる。疑問を述べようとしたら、セツがそれを遮った。切ない表情だった。

「もう、僕のことは――」

 言われることが予想でき、俺はそれを聞きたくなくてセツの唇に俺のそれを重ねた。触れるだけのキスをして顔を離し、ぎょっとする。はらはらと透明の液体――涙を流していたからだ。

「な…」
「駄目だよ、駄目だ、ハルト。僕に固執しちゃ駄目だよ…」

 それは、つまり――忘れろ、と言いたいのか。眉を顰める。

「想いを告げることができて、こうして触れることもできて、それだけで充分だよ。もう僕のことは気にしなくて良いから」

 何て残酷な言葉だろう。……俺がお前以上にハマる奴なんていないのに。俺が欲しているのは、セツただ一人だというのに。

[ prev / next ]



[back]