キミと過ごした季節

(「アナタと見上げた夜空は」の続編/見た目不良×平凡/ハルト視点/シリアス/悲恋)


一応単体でも読めます。



















 俺には好きな奴がいた。直ぐに想いを伝えたいと思うほどに焦がれる相手だが、それをするには大きな壁を越えなければならない。想い人は男だった。
 最初目にした時は不気味だと思った。何せ彼は病気なのかと見紛うほど青白く、そして細い。ただ彼の雰囲気が俺を惹かれさせた。
 彼はいつも夜の公園にいて、ぼおっと空を眺めている。見かける時には毎回頭に雪が積もっていた。風邪を引かないのだろうか。そんなに青い顔をしているのに大丈夫なのか。気になって気になって、俺はついに声を掛けた。

「何してんの?」

 そう声を掛けて、彼がびくりと俺を見た。そこで思い出す。俺の外見は、眉間に皺を寄せているのがデフォルトらしくて、度々機嫌が悪いのかと様子を窺われる。別に機嫌が悪いわけじゃない。これが俺だ。――と、そのままにしていたらいつのまにか友達なんて出来ないまま高校生だ。
 更に、今俺は喧嘩をしてきた直後で、傷だらけだ。そんな俺が、初対面の、こんな儚い男に怖がられないわけがない。自分の浅墓さに苛立った。ところが彼は、吸い込まれそうなくらい真っ黒な瞳で俺を見つめながら言う。「空を、――空を見ているんだ」

「空を?」

 訊き返すとうんと頷かれ、俺は話を繋げようと疑問を投げかけた。

「好きなのか?」
「好きだよ」
「何で?」
「雪が降っているから」

 よく分からない答えに俺は首を傾げた。しかし彼はこれ以上言う気はないらしく、隣のブランコを指差す。「良かったら座ってよ。体、大丈夫?」
 なんとも言えない温かみが心を包み、頷く。思えば、彼を本当の意味で好きになったのがこの瞬間だった。ぱっとしない地味な顔なのに、どこか人を安心させる笑みだ。ドキドキと心臓が激しく鳴るのを必死に気付かない振りをしながら、隣のブランコに腰掛ける。この歳になってブランコってどうなんだ、という羞恥が一瞬だけ浮かんだ。……夜とは言えど、街灯が俺たちを明るく照らしている所為で、俺を知っている誰かが公園の前を通り過ぎれば一発でばれてしまう。そう思いながら、でもここから退く気にはなれなかった。















「よう」
「あ、こんばんは」

 最近、夜にここに来ることが日課になっている。怪我をしていたら彼が悲しそうな顔をするから、めっきり減った。ただ、どうしても絡んでくる奴は沈めた。怪我しないように細心の注意を払って。

「今日は好きな人と話はできたの?」
「ああ、まあな」

 っていうか現在進行形で話しているんだけど。流石にまだ言うことはできず、笑みを浮かべて彼を見る。俺は彼に、今恋をしているんだと言った。不毛な、という言葉を付け加えて。そうして彼の特徴を次々と挙げていくのに、彼は鈍感で、全く俺の気持ちに気付いていない。お前のことだよ、気付けとちょっとばかりムカついたのは内緒だ。考えてみれば当たり前だよな。同性だから、恋愛対象なんかになってない。改めて不毛だなんて考えていると、彼が少しだけ眉を下げて俺を見た。
 ん?

「どうした?」
「えっ、あ、いや、なんでもないよ」

 そう否定されるが、割合笑っている方が多い彼がこういう顔をするのは珍しかった。あるとしたら怪我を見たときだ。これって――。自分の中で期待が膨らむ。なあお前、今自分がどんな顔してるか分かってる?

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