アナタと見上げた夜空は

(見た目不良×平凡/シリアス/悲恋)


















 僕は恋をした。彼は不良と属されるような人で、見た目は確かに怖いのだけれど、でも中身はとても優しい人だ。
 彼には好きな人がいた。何でもその人は自分とは正反対の人で、つい最近まで話すこともできなかったのだという。それを聞いて僕は純粋な人だと感じた。そして、それが叶わない恋の始まりだ。
 彼は良く想い人について僕に話してくれる。その顔を見るだけで、とても幸せになった。だけど、自分の心がキリキリと痛む。

「そういや、お前名前は?」
「え?」
「いや、訊いてなかったなって思って」

 僕に関心を持ってくれたのは初めてで、僕は真っ白になり、吃ってしまった。それを彼が笑う。
 そもそも、僕と彼の出会いは今いるこの公園で、夜遅くにブランコに乗りながら、ぼぉっと雪が降るのを眺めていた時だった。傷だらけの体を引き摺って来たのには本当に驚いた。
 そして何となく話すようになったのだ。あれから一ヶ月。今も柔らかい雪が僕たちの上に降り積もる。

「僕はセツ」
「セツか。俺はハルトっていうんだ」
「ハルト、いい名前だね」

 お前も。そう言って笑うハルトに僕も笑みが零れた。幸せだ。いつまでもこの幸せが続けばいいのに。
 だけど、僕はこの幸せがもうすぐ消えることを知っている。















 ハルトは想い人の話をしなくなった。どうしたのか、と問うと切なく笑って黙ってしまう。ハルトには幸せになってほしい。モヤモヤとした感情が僕を占める。

「セツと会うときはいつも雪が降ってるな」
「そうだね。雪は嫌い?」
「いいや。寧ろ好きだよ。――でも、もうそろそろ春だな」

 その言葉に胸が抉られたような感覚になる。ドキドキと体中が熱を持って、涙が出そうになった。幸いハルトは夜空を見上げていたので気付かれなかったようだ。
 不意に隣に座っていたハルトの手が僕に触れそうになる。ハッと青ざめて僕は手を引っ込めた。怪訝な表情になったハルトは首を傾げる。

「嫌だったか?」
「ご、…ごめん…。僕、人に触られるの苦手で…っ」
「そっか、俺こそごめん」

 少し残念そうに笑って、ハルトは再び夜空を見上げる。僕も釣られて上を向くと、残酷なほど冷たい雪が僕を包んだ。

「じゃあ俺そろそろ帰るわ」
「……そっか」
「そんな顔すんなって。また明日来るからさ」
「うん…ねぇ、ハルト」
「ん?」

 柔らかい笑みを向けられて、僕はその姿を焼き付けるようにじっと見つめた。

「有り難う、楽しかったよ」
「えっ、何言ってんだよ今更。俺こそいつもサンキュ」
「えへへ…」
「じゃあな、また明日」
「うん、じゃあね」

 また明日、という言葉は飲み込んだ。ハルトの姿が見えなくなると力を抜く。
 暫くして雪が止んで、雲の間から月が覗いた。空を見上げると、明るい光が僕を覆う。
 ――もうすぐそこまで春が来ている。それは、即ち永遠の別れを指していた。
 体温のない己を抱きしめると頬を何かが流れる。体の中が燃えるように熱くなり、自分が薄くなっていく。静寂な終わりを、ただ月明かりだけが見ていた。


(アナタに一度でも触れてみたかった)


fin.


セツ(雪)

冬の間だけ存在できる。
見た目は秀でていないが青白く、どこか儚い印象を受ける。
体温がない。


物凄く季節外れですが、急に思いついたので書きました。
セツは雪の子です。触られるのを嫌がったのは体温がないからっていうのと、体温を奪ってしまうからです。

ハルト(春斗)視点も書くと思います。
因みに名前はハルトとナツメで迷いました。夏と冬で絶対に結ばれない関係だからナツメ、もしくは春のように温かい性格をしているからハルト。
結局もうすぐ春になるということでハルトに決定。実はもう一つ理由があるんですけどね。

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