夜に舞う血の獣A

夜に舞う獣続編/暴力表現有り



















(side:一樹)


 ピリリリ、と何かが鳴る。携帯電話の初期設定音のようだ。羽取は視線をちらりと横に遣って、すぐに前を向く。頬を汗が伝った。焦りの滲む顔で吐き捨てるように言った。

「くそっ、…もうバレたのか」

 携帯電話を鳴らしたのは誰だろう。須藤か、それとも…。この焦り方を見ると、龍崎という可能性は高いような気がする。
 しかし、逃げ出してからそこまで時間が経っていないはずだ。すぐにばれるなんて、タイミングが悪い。……俺はじっと羽取の横顔を見つめる。須藤が知らせたのではないだろうか。あの男ならやりそうだ。そもそも、龍崎と須藤が仕組んだこととは考えられないか?俺と羽取を掌の上で転がして遊ぶ――俺はそこまで考えて、いやと頭を振った。考えすぎだろう。
 羽取がハンドルを切る。ぼうっとしていた俺の体が傾く。羽取の腕に少しだけ当たると、彼の腕はびくりと震えた。ちら、と俺を見て、何かを確かめるように小さく頷く。俺はそんな羽取を見ていられなくて、視線を外す。…本当に良かったんだろうか。俺の選択は間違っていなかっただろうか。ざわざわと胸騒ぎがした。

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