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(No side)
一人の男が闇を見つめ、喉を鳴らす。壊れた鎖を拾い上げると、静かな空間に煩く響く。
「あーあ、馬鹿な奴ら」
この場にいない者を馬鹿にするが、その顔は愉しげだった。鎖を投げ捨てる。
「さて、どう出るかな…」
男は目を伏せた。背後で靴の音がし、にやりと笑って振り返る。視線が合い、狐のような細い目を更に線にした。
「――おかえり、龍崎さん」
久しぶりに人工的な空間から解放され、月の光に晒された一樹は、思わず目を細める。酷く懐かしい気がした。もう何年も前のような――。一樹があそこに連れられてからどれほど経ったんだろうか。まあ、それはどうでもいい話だ、と一樹は溜息を吐く。そして呑気に月を見上げた。そんな彼の行動を咎める者はここにいない。
「これに乗ってくれ」
一樹の腕をしっかり掴んでいる羽取はそう告げる。一樹は大人しく指示に従った。ちらりと羽取を見る。羽取は、少しだけ後悔したような、しかし覚悟を決めたような顔で車を見つめ、運転席に座った。ほどなくして動き始める。
夜の街を静かに照らす月は、どこか危うい雰囲気を放っていた。一樹は動く景色から月へ視線を向け、妙な不安に襲われた。
血の獣が来る――。一樹は震える手を、しっかりと握った。
fin.
続きます。
あまりにも長くなりすぎてしまいました。すみません!
以下登場人物紹介です。
武山 一樹(たけやま いつき)
23歳(?)
人間ではない人間。
怪我がすぐに治る。
龍崎 隼人(りゅうざき はやと)
龍崎組の時期組長
狼人間。
羽取(はとり)
眼鏡。
真面目。一樹を良く思っていない。
須藤(すどう)
狐のような顔だが猫。
何を考えているのか良く分からない。
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