ヤンキー金山のパシリくんと友達

ヤンキー金山のパシリくん続編/暴力表現有












 男にキスされたという衝撃の日から、数日が経った。パシリさせられてる奴からキスされるって、一体どういう状況だよ。俺には金山が何を考えているのかさっぱり分からない。
 金山はというと。数日間様子がおかしかった奴はすっかりもとに戻ってしまった。憑き物でも落ちたようだった。俺はこんなにモヤモヤしているというのにと怒りが湧いてくる。一人でスッキリしてないで、とりあえずあのキスは何なのか説明しろ!
 今日も今日とて満員に近い電車に揺られながら憂鬱な気持ちでいると、突然急ブレーキがかかって体が傾く。倒れそうになった俺の体を受け止めたのは、男らしく、それでいて綺麗な手だった。

「すみません」

 慌てて顔を上げて謝ると、俺を受け止めた男と目が合った。綺麗な二重に力強い眉。そして黒髪の清潔そうな短髪。スポーツをやっていそうだ、という印象を抱いた。男は目を数回瞬いて、にこりと笑った。いい人そうだ。金山みたいな奴じゃなくて良かった。

「誰かと思えば、金山のパシリじゃん」
「……えっ?」

 爽やかな人好きのする笑顔を浮かべた男から発せられた言葉に一瞬耳を疑う。俺のことを知っているのに加えて大丈夫ですか、とか気にしないでください、という言葉を予想していたから、びっくりした。しかもそんな害のなさそうな顔で、さらっとパシリって。
 改めて男を見たら、同じ制服だった。学年を表すネクタイの色も一緒。つまり、同級生だった。

「え、あの」
「重いから退いてくんね?」
「あ、ご、ごめん」

 笑顔とは対照的に声は冷めていて、真っ直ぐ立った俺は縮こまる。見た目に反して中々辛辣というか、怖いぞこいつ。
 ところで、こいつは誰なんだろう。クラスメイトではないことは確実だが、イケメンだし、背高いし、目立ちそうだけど見たことないな。じっと見ていたら、男は不思議そうに首を傾げた。

「何?」
「名前、訊いていい?」
「よくない」

 にこりと笑う男に顔を引き攣らせる。じゃあいいと言おうとすると、男は声を立てて笑った。「ウソウソ。俺、山口ね。隣のクラスだけど、分かんねえ?」


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