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「やまぐち…」
「そう、山口渉」

 聞いたことがあるような、ないような。隣のクラスだったらすれ違ったり噂を聞いたりしそうだけど、記憶を掘り返してみても、やっぱり分からない。

「ごめん、分からない」
「ふーん、そっか。悲しいなあ」

 そういう割には、口角が上がっていて、笑みを浮かべていた。

「先週転入したばっかりだから、知らなくても仕方ないかもな。まあ、俺結構噂になったみたいだけど」
「え、先週…?」

 目を見開く。どおりで、すれ違ったことがないはずだ。うちのクラスには最近金山がいるから女子も騒がないし…。

「君のことは聞いたよ。友達いないなら、俺のこと聞いてなくて当たり前か」

 にやりと笑うその顔に爽やかさなんて微塵もなかった。普通言うか、そんなこと。本人の前で。

「金山に友達作るなとか言われてんの?」
「え、いや…別に」
「じゃあ君に近づかないだけか」

 悲しいねえ、と笑いながら言う山口。遠くの方でお姉さんが山口を見て頬を染めていた。騙されてはいけない、こいつ、俺に友達がいないことを笑ってるんだぞ。
 むすっとしていると、頭になにかが乗った。ちらりと視線を上に遣ると、山口が手を乗せていた。そして、ぽんぽんと数回軽く叩かれる。

「俺と友達になろう」
「……え?」

 えっ。一瞬何を言われたか分からず、ぽかんとする。それを愉快そうに笑いながら、俺の頭から手を離した。
 友達になろう、なんて、高校に入って初めて言われた言葉だ。胸の高鳴りが止まない。
 
「なんか面白そうだし」

 止んだ。



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