無口な男に惚れる時

無口な男のキレる時続編/迫視点











 あいつの存在を知ったのは高校に入ってからだった。同じクラスになり硬派でかっこいいと一部の女子が騒いでいるのを聞いて、最初はふうんと思っただけだった。俺はそれなりに身長が高く、顔も整っていると自覚している。いつでも一番だった。しかし、あいつ――守屋の方が身長が高く、成績も上だった。しかも、あいつに初めて話しかけたとき、何を考えているのか分からない顔でこっちを一瞥しただけだったのだ。それでどうやって好意を抱けと言うんだ。俺は顔を見るのも嫌になった。
 そんな時、クラスメイトで、同じく守屋をよく思っていない奴がこんなことを言った。

「あいつのあの澄ました顔をどうにかして歪ませてぇなあ」

 俺は守屋の顔を思い浮かべる。あいつの顔が変わったところを、そういえば一度も見たことがない。俺はすっと頭に浮かんだ言葉をそのまま口に出した。

「じゃあ、あいつと付き合うわ」
 
 自分の言ってる言葉のおかしさに気づいたのは、クラスメイトのアホ面を見てからだった。

「は…?」
「いや、別に深い意味はねえよ? あいつと付き合うっつーことは、ずっと一緒にいるだろ。そしたら何か弱みとか握れるかもしれねーし、それに、恋人の頼みだろって無茶な願いも聞いてくれるかもしんねーし?」

 言い訳のようにつらつらと述べると、段々胡乱な目になっていく。やべえ。汗が流れた。まるで俺があいつと付き合いてーみたいな感じに聞こえたのかもしれない。

「そうかもしんねえけど…別に付き合わなくてもいいんじゃね?」
「…付き合って、あいつを惚れさせる。それで最後はこっぴどく振ればいいだろ?」
「……そんなにうまくいくかね?」
「俺をなめんなよ」

 にっと笑うが、引き攣っていただろう。クラスメイトは幸運にもそれに気づかないで、分かったと頷いた。俺はこの時、顔を見るのも嫌な奴と付き合うのかという頭の中に響いた警告に、気づかない振りをした。







 教室で本を読んでいた守屋の元へ行き、ついて来いと言うと意外にもパタンと本を閉じて素直について来た。人気のない場所へと行く途中ちらりと様子を窺うと、のそのそ歩いている。無口なこともあって、熊みたいだ。そんな男に今からこの俺が告白するのかと今更になって憂鬱になった。

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