ずっと一緒にいるから

CAGE-CLOSE-斎木ルートネタバレ注意。
WAS a kittenED後。













「…あれ? 紺野くん?」

 聞き覚えのある声がして振り向くと、目をぱちぱちと瞬いている人がいた。その人は直ぐに満面の笑み――それこそ、花が咲くように笑った。

「やっぱり紺野くんだ」
「お久しぶりです、九条さん。…その節は大変お世話になりました」
「え? ああ、いいよ、そんなの。紺野くんの頼みだもの」

 九条さんはふわりと笑う。俺も笑い返した。九条さんや矢ヶ崎さん、そして新田と吉本。この同盟を組んでいた四人のおかげで今の俺がいるのだ。他の奴らはどうかしらないけど、九条さんがそう言ってくれるだけでホッとする。というか、九条さんはいい人すぎて変な人に騙されないかとても心配だ。

「紺野くん、今日はスーツなんだね…あ、そうか、確かクロイヌは辞めちゃったんだっけ?」
「はい、今は斎木の側近をしてます」

 答えると、九条さんは何とも言えない顔をした。そりゃそうだ。斎木はあのゲームを開催した、人の命を虫けらのように扱う極悪非道の奴。俺の親友だった大衡も、直接手を下していないにせよ、斎木が殺したのも同然だった。あの時は憎しみでどうにかなりそうだったなと考える。まあ、憎しみは消えてないし、許したわけじゃねえけど。
 でも、今じゃそいつの下で働いてるんだから、人生何が起こるか分からない。

「何もされていない? 大丈夫かい?」

 ずいっと顔を近づけてくるので身を引きながら苦笑する。この人、こういうところあるよな。いや、心配してくれてるのは嬉しいけど、ちょっとオーバーというか。

「大丈夫ですって。何もされてません。あいつ、結構かわいいところあるんですよ?」
「……本当かい?」

 俺はしっかりと頷く。九条さんはまだ信じきれてないようだったが、諦めたように笑った。

「…それにしても、そのスーツ似合っているね。紺野くん、何倍も格好良くなってるよ」
「え? そうですか? …嬉しいです、ありがとうございます」

 このスーツは、斎木に買ってもらったものだ。てめえにはこれが似合いだよと言われたのを思い出し、心が温かくなった。だって、あいつからのプレゼントだ。

「――っと、やべ! すみません、俺、もう時間が」
「そっか、残念だけど…会えて嬉しかったよ。急いでいるところ、引き止めてごめんね?」
「いえ。俺も、会えて良かったです」
「あと、良かったら…これ」

 すっと何かを差し出してくる。名刺だった。

「ここで働いてるんだ、俺。髪を切りに来てくれると嬉しいよ。紺野くんだったら、喜んでサービスする」
「…ありがとうございます! じゃあ」

 そうして俺は九条さんと別れた。



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