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 急いで車に乗り込んだ。

「わりい、――」

 ごりっと額に何かが当たる。

「……えーと、斎木さん? これは一体」
「あぁ? 銃に決まってんだろ。んなことも分からねえくらい頭が空なのかよてめえは」
「ちげーよ! 何でいきなり銃突きつけられてんのかって話だよ!」

 確かに待たせたが、そこまで待たせたわけではない。斎木は恐ろしく不機嫌な様子で舌打ちをし、銃口を下げた。

「てめえ、何してた」
「え?」
「今何してたかっつってんだよ、あ?」
「何してたかって、お前が腹減ったっつーからコンビニに…」
「ちげえよ。……あの鋏のヤローといただろうが」

 あ。そっち。ていうか何で知ってんだよ。ここから遠くなかったし、見えたのか。

「いたけど、それがどうかしたか?」
「あいつには今後近づくんじゃねえぞ」
「は!? 何で!?」
「てめえマジで殺すぞ」

 殺すと言われる理由が分からない。顔を顰めていると、髪を鷲掴みにされた。最近の若者はキレやすいと言うが、こいつほどではないだろう。

「いででででででで! ハゲる! 抜けるからそれ!」
「あいつ、てめえのケツ狙ってんだよ! 気づけよクソバカ紺野!」

 車が静まり返る。俺は言われたことが一瞬分からず、ぽかんと斎木を見つめた。

「っは、ブサイクな面」

 斎木は俺の髪から手を放す。ぱらぱらと俺の大事な髪が何本か落ちていく。

「……九条さんが? ないだろそれは…」

 あの人は確かに俺に優しいが、それは別に俺だけに対してなわけじゃないと思う。斎木は俺の返答に盛大な舌打ち。どうやら九条さんが気に入らないらしい。

「…なに。お前、妬いてんの」

 まさか。こいつが、まさかね。
 ありえないと思いながらも淡い期待を抱いていると、斎木の青白い頬が赤く染まった。目を見開く。

「え、お前、マジで――」
「あぁ!? んだよブッ殺すぞ!」

 声変わりしていない高い声が車に響く。ブッ殺すと言われているのに、俺の顔はどんどん赤くなり、そして頬がだらしなく緩んだ。それを見て斎木の顔が般若のようになる。怖いとは思わなかった。

「分かった、お前が言うなら会わねーよ」

 九条さんには大変申し訳ないが、俺の上司が会うなと言うんだから、会うことはできない。貰ったばかりの名刺を取り出し、ビリビリに破く。それを斎木は大きな目でじっと睨むように見ていた。

「な?」
「うぜえ。こっちみんなカス」

 ぷいっと外方を向いてしまう斎木。しかし、斎木の口が一瞬上がったのを俺は見た。

「俺はてめえを死ぬまで扱き使ってやるからな」
「はいはい」

 死ぬまで。それはつまり、ずっと一緒にいろということだ。
 俺は斎木の小さな手を取って、ぎゅっと握り締めた。













fin.

斎木にしては甘い話。
斎木、コンビニのものとか食べなさそう。


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