▼ 2
急いで車に乗り込んだ。
「わりい、――」
ごりっと額に何かが当たる。
「……えーと、斎木さん? これは一体」
「あぁ? 銃に決まってんだろ。んなことも分からねえくらい頭が空なのかよてめえは」
「ちげーよ! 何でいきなり銃突きつけられてんのかって話だよ!」
確かに待たせたが、そこまで待たせたわけではない。斎木は恐ろしく不機嫌な様子で舌打ちをし、銃口を下げた。
「てめえ、何してた」
「え?」
「今何してたかっつってんだよ、あ?」
「何してたかって、お前が腹減ったっつーからコンビニに…」
「ちげえよ。……あの鋏のヤローといただろうが」
あ。そっち。ていうか何で知ってんだよ。ここから遠くなかったし、見えたのか。
「いたけど、それがどうかしたか?」
「あいつには今後近づくんじゃねえぞ」
「は!? 何で!?」
「てめえマジで殺すぞ」
殺すと言われる理由が分からない。顔を顰めていると、髪を鷲掴みにされた。最近の若者はキレやすいと言うが、こいつほどではないだろう。
「いででででででで! ハゲる! 抜けるからそれ!」
「あいつ、てめえのケツ狙ってんだよ! 気づけよクソバカ紺野!」
車が静まり返る。俺は言われたことが一瞬分からず、ぽかんと斎木を見つめた。
「っは、ブサイクな面」
斎木は俺の髪から手を放す。ぱらぱらと俺の大事な髪が何本か落ちていく。
「……九条さんが? ないだろそれは…」
あの人は確かに俺に優しいが、それは別に俺だけに対してなわけじゃないと思う。斎木は俺の返答に盛大な舌打ち。どうやら九条さんが気に入らないらしい。
「…なに。お前、妬いてんの」
まさか。こいつが、まさかね。
ありえないと思いながらも淡い期待を抱いていると、斎木の青白い頬が赤く染まった。目を見開く。
「え、お前、マジで――」
「あぁ!? んだよブッ殺すぞ!」
声変わりしていない高い声が車に響く。ブッ殺すと言われているのに、俺の顔はどんどん赤くなり、そして頬がだらしなく緩んだ。それを見て斎木の顔が般若のようになる。怖いとは思わなかった。
「分かった、お前が言うなら会わねーよ」
九条さんには大変申し訳ないが、俺の上司が会うなと言うんだから、会うことはできない。貰ったばかりの名刺を取り出し、ビリビリに破く。それを斎木は大きな目でじっと睨むように見ていた。
「な?」
「うぜえ。こっちみんなカス」
ぷいっと外方を向いてしまう斎木。しかし、斎木の口が一瞬上がったのを俺は見た。
「俺はてめえを死ぬまで扱き使ってやるからな」
「はいはい」
死ぬまで。それはつまり、ずっと一緒にいろということだ。
俺は斎木の小さな手を取って、ぎゅっと握り締めた。
fin.
斎木にしては甘い話。
斎木、コンビニのものとか食べなさそう。
[ prev / next ]