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 相手が葉子ちゃんなら分かるけど、どうして水見さんなんだ? うーん、友達を取られたくないなんて可愛いことを思う奴じゃないしなあ…。

「うん、まあ無意識なのかもしれないけどさぁ」
「良く分かんねぇけど、多分誤解してるぞ」

「いや、いいよ、分からなくて。それじゃあ、あの二人言い終わらなそうだし、僕と行くかい?」
「え、いいのか?」
「歩人くんは僕の恩人だからね。頼ってくれると嬉しいさ」
「じゃあ頼む」

 少し頼りないけど、という言葉は飲み込んだ。そんなこと言えるわけがない。それに、俺は協力してもらう立場だ。妥協しよう。この人は案外ここに巣くう化け物と戦闘になった時に頼りになるしな。
 漸く先に進もうとした時、誰かが俺の腕を掴んだ。振り向くと、焦ったような顔の今日介。そしてその後ろに呆れ顔の水見さん。

「歩人、だから何で俺じゃない奴を!」
「歩人くんも困ってるじゃないか、それに」

 水見さんはちらりと黒江と話している教授を一瞥する。その目には警戒の色がありありと見て取れた。

「教授もそろそろ痺れを切らすんじゃないかな。それで怒られるのは歩人くんだよ」

 ぐっと押し黙る今日介。ギロリと水見さんを睨んでいて、今にも殴りかかりそうだ。今日介には前科があるから水見さんは警戒したように一歩離れる。
 俺は溜息を吐く。

「分かった、今日介、行くぞ」
「えっ……」

 目を丸くして勢いよく俺を見た。水見さんと満さんはやれやれと肩を竦めている。俺は頭を下げて謝った。

「誘っておいてすみません、水見さん。満さんも、折角言ってくれたけど」
「いや、いいよ。気をつけて行くんだよ」
「何かあったら遠慮しなくて言いにきていいからね」

 二人の言葉に俺は笑顔を返す。すると今日介が俺の手を掴んだまま歩き出してしまった。慌てて頭を小さく下げて今日介の歩調に合わせる。

「なぁ、どうしたんだよ、今日介。変だぞ」
「うっせぇ」
「葉子ちゃんはいいのか?」
「何で葉ちゃんが出て来るんだよ」
「だってお前、俺が気を利かせたってのにさぁ」

 全然汲み取ってくれないし…。そう言うと、目を見開かせた。

「え、じゃあ俺よりあいつらが良かったとかじゃなくて…」
「そりゃあの中で一緒に付いて来て欲しいのは今日介に決まってんだろ」

 呆れたように言うと、息を飲む音が聞こえた。

「っ、そ、そっか」
「……ん? 顔赤いぞ、もしかして熱でも出たのか!?」
「ぅ、うわっ! 大丈夫だっての! 近付くんじゃねぇ!」

 …大丈夫に見えないけど。ぷっと吹き出すと、笑うんじゃねぇと怒られた。

「つーか、いつまで手掴んでんだよ!?」
「はぁ? …げっ!」

 げってなんだよ。いや、男同士で手繋ぐのはちょっと視界的にも問題あるけど、げっ、て…。

「これからは俺に頼れよ」
「はいはい。でもいいのか? 葉子ちゃんに良いところ見せるチャンスなのに」
「……いいんだよ。俺は……だし」
「え? 何? ごめん、聞こえなかった。も一度言ってくれ」
「はっ、誰が言うか、ばぁか」

 ニヤリと笑う普段通り今日介に安堵する。笑みを浮かべると馬鹿と言い返して頭を殴った。







『俺は…お前の方が大事だし』
















fin.


音樹さんを出せなかったことが心残りです。

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