→2.一を見る


 ちら、と一を見ると一も俺を見ていた。暫時見つめ合っていると痺れを切らしたのか了が不満そうな声を上げる。

「何で見つめ合ってんのさぁー! 駄目駄目、千尋、一くんなんて見ないでー!」
「……えーと…」

 むう、と子どものように頬を膨らませた了に何とも言えない気持ちになっていると、どこからか携帯の鳴る音がした。はっとした了がポケットから携帯を出す。そして携帯を開いて眉を寄せると舌打ちした。

「もー! 何でこんなときに…。ごめん千尋、仕事入っちゃったからいくね」
「あ、ああ、頑張れ」
「不良くんも行くよ!」
「は!? 何で俺も!?」
「同室者の不始末ちゃんとしてよねー!」
「げ、おうど…桜木かよ…」
 
 御手洗は了承していなかったが、無理矢理連れて行かれてしまった。慌しく去っていった嵐を呆然と見送る。正直助かった。これで悪戯とかされることはないだろう。

「一々騒がしいっちゃん、あいつ」

 疲れたように髪を掻き乱す一に申し訳なく思いながらソファーに近づく。向かい側に座ろうとしたら腕を掴まれた。首を傾げると、ぽんぽんと隣を叩く一。ああ、隣に座れってことか。俺は一つ頷いて一の隣に腰掛けた。

「それにしても、了があんなに俺に悪戯したかったとはな」
「……もしかして、その理由に気づいてないん」
「え、一には分かるのか」
「なんとなく。要は、こういうことがしたかったんやろ」

 こういうこと? 疑問を口にしようと開いた瞬間、素早く頭を押さえられて口付けられた。驚いて目を見開く。え、な、なんでキスしてんの? 呆然とされるがままになっていたが、舌を入れられそうになって慌てて抵抗する。

「ん、ふ、……ぁ、う…!」
「……っあ、わ、悪い。つい」

 我に返った一が眉を下げて謝った。いや、女じゃないし、別にキスくらいはどうってことはないけどさ…意図が分からない。ん? 今さっき言ったこういうことってキスのこと? つまり了は俺とキスしたいのか? いや、何でそうなるんだ。全然意味が分からない。

「あ、トリック・オア・トリート」
「悪戯? やった後で言うなよ、それ」
「まあ、衝動的にやっちまったし」

 ふ、とカッコよく笑う一に、俺も諦めたように笑った。







Happy Hllowen
壱END
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