夏・土曜日





「あー……良かったな」

「なんか、あきれてない?」

「何も言ってねぇけど」

「目ぇ、合わせないし」

「んなこと無い」

「ほら、また逸らす!」

「…なんだよ、俺は眠いんだよ」

「岳人に相談しようと思ったのにぃ」

「何をだよ。幸せなんだろ?顔みてすぐわかった」

「そお?」

「オメデトウ」

「えへへ、ありがと」

「初彼氏か。幸せにな」

「照れるC」

「めでたしめでたし。てことで俺はいま昼寝中なんだ。寝させてくれ」

「ぶー!まだ2時だよ?」

「お前が言うな。昼食後で立派な昼寝タイムだ」

「ねぇ〜、どっか行こうよ」

「どこへだよ」

「テニスしにいこ?」

「…お前、この猛暑の中、本気か?」

「打ちたい気分。公営コート行こ?」

「ムリ。暑すぎ。せめて日が落ちないと、だめ」

「えぇ〜?」

「ぜってぇ倒れる。お前なんて始めて5分で日射病だろ」

「そんなことねぇもん。岳人のほうがスタミナねーじゃん。そっちが日射病になるほうが先だC」

「二人して倒れちゃだめだろーが」

「えぇぇ〜じゃあどーすんのさ」

「大人しく部屋で寝てろ」

「今は眠くねーもん」

「珍しいこともあるもんだな」

「丸井くんのことばっか考えちって、寝れない〜」

「……あっそ」

「ねぇねぇ、ちょっと聞きたいっていうか、相談っていうか」

「なんだよ、今度は」




「あのさぁ。一般的に、付き合う場合って、どんくらいでするもんなの?」

「ぶっ!!」




「わっ!!びっくりした。なんだよ、急に〜ほら、タオル」

「ーっ!!こっちがびっくりしたわ!!」

「麦茶で良かった〜ほら、ティッシュも」

「サンキュ……っつーかよ」

「う?」

「お前、昨日付き合うことになったばっかだろ?」

「うん」

「そんで、その質問か?」

「…う?」

「『う』じゃねぇ!」

「一般論の質問なんだC」

「よりによってお前の口からそういう話しが出るとは思ってもみねぇよ」

「なんでだよ〜」

「こういうの話したことねぇじゃん」

「そだっけ」

「亮とはあるけど、お前下ネタとか言わねーし」

「しもねた?」

「…なんでもねぇ」

「なになに、宍戸とは何話すの?」

「あー…」




(ジローの前でソッチ系の話したこと無ぇしな。
てういかコイツ、精通…いや、いくら何でも。
雰囲気的にこいつの前だと出来ない感じだったしなぁ。こう、不可侵的なー。
どこまでわかってんだか、微妙だし)





「一応聞くが、付き合ってどんくらいでスルって、何をするんだ」

「エッチ」

「…お前の口からそんなこと聞きたくねぇ」

「えぇ?」

「……ていうか俺だって、彼女いねーし」

「うん、そだね」

「いたことねぇし」

「うん、知ってる」

「なら俺に聞くんじゃねぇ!知るかっつーんだ!」

「でもでも、岳人にしか聞けないC〜。一般的なことでいーんだけど」

「あぁ?!知るかよ。2ヶ月とか3ヶ月とかそんなんじゃねぇのか?」

「付き合う初日にそういうことってする?」

「はぁ?!」

「例えば岳人に彼女ができて、その日にエッチってするもん?」

「しねぇだろ」

「やっぱそうだよねぇ」

「そりゃ、するヤツもいるだろうけど…」

「忍足とか?」

「侑士?…まぁ、ありえるな」

「跡部とか?」

「アイツはそういうこと軽くはしないだろ。遊ぶ相手も選ぶだろうし」

「忍足はありえる、と」

「ああ。年上のキレイなお姉さんとばっか付き合ってるし」

「そっかぁ。じゃあ付き合う初日にやっちゃうケースも、一般的にはあるってことかぁ」

「お互いの経験値にもよるんじゃねぇのか?」

「忍足は経験豊富だから初日でも抵抗ないってこと?」

「侑士の経験なんて知らねーけどさ。でも、オトナの付き合いってヤツ?」

「じゃあ、高校生同士の恋愛の場合は?」

「お互いが初めての恋人同士だっつーなら、初日ってのはあまり無いんじゃねぇか?」

「相手が経験ほーふだったら?」

「経験豊富?」

「例えば、忍足が高校生の女の子と付き合うとして、その子が誰とも付き合ったこと無いとか」

「…いくら侑士でも初日に迫りはしないと思うけど」

「それでもするケースって、ありえる?」

「その子に余程迫られたとかなら、侑士もするかもしんねーけど」

「特にそーでもなくて、その子は初めての彼氏でどうしたらいいかわかんないのに、経験ほーふな彼氏が迫ってくる、とかは?」

「侑士は遊び人ではあるけど、初体験の子にがっつくことはねーと思う」

「忍足はもういいから、一般論としてさぁ」

「一般論ねぇ。経験豊富な彼氏は、よほどその子とやりてーとか?」

「やりたい…」

「付き合い初日なんだろ?好きあって付き合うんだから……って、お前」

「え?」





「『初めての彼氏でどうしたらいいかわかんない誰とも付き合ったことが無い子』って、お前か」



「……」





「経験豊富な彼氏が、丸井?」

「……」




「お前、昨日押し倒されたのかよ」

「……う」

「『う』じゃねぇ!」

「…い、一般論が、知りたい…だけだC」

「んなにどもって、何が『一般論』だ」

「うぅぅ」

「ったく……さすが『立海の遊び人』、か。一発殴ってやんねぇとダメか、やっぱり」

「え?!」

「あいつ今どこにいる。自宅か?」

「ええっと、今日は湘南でジャッカルんちの海の家手伝ってるはず…」

「よし、行くか」

「え、ちょっ、岳人?」

「亮も呼ぶか」

「ちょ、ちょ、待ってよ。行くって」

「湘南。何なら跡部も呼ぶぞ」

「跡部はダメ!…じゃなくて、何で湘南?!」

「丸井んとこ連れてけ」

「行ってどーすんの」

「殴る」

「は?何で?!」

「こんな何もわかってねぇヤツに手ぇ出すって、ありえねぇだろ」

「なにもわかってない?誰が?」

「お前だっ!!」

「ええ?どういうこと?よくわかんねぇんだけど」

「わかってねぇなら黙って、大人しく案内しろ」

「わけわかんねぇし〜」

「亮は…家だな。先にそっち行くか」

「待ってってば、岳人!」

「なんだ?!」

「なんでっ?丸井くん、殴るって、そんなのダメだC!!」

「何でだよ!?」

「ダメダメ!!丸井くんは、オレの大切な人なんだから、殴っちゃダメ!」

「殴ろうとしている理由、わかんねーのかよ!」

「何で?!」

「お前がそうだからだろーが!」

「う?」

「だから、『う』じゃねぇ!!」

「うぅぅ」

「だぁぁ〜、何でコイツはこうなんだよ。ったく!こっちがアホみてぇじゃねーか」

「岳人はアホじゃないよ!」

「お前は黙ってろ!」

「何だよ〜酷いC」

「何なんだよ!何か?昨日お付き合いすることになりましたー、と」

「そうだよ。へへ、照れる」

「で、急に押し倒されましたー、と!?」

「まじまじびっくりした。どうしたらいいかわかんなくて、ぐるぐるしちった」

「そんでもって、ヤりましたーってか?!」

「ば、ばか!やってないよ」

「あぁぁ?!」

「こ、恐くて、パニクっちゃって」

「泣いたのか?!」

「…なんでわかるの?」

「お前キャパオーバーしてパニックになると泣くだろーが」

「ここ数年そんなことねぇのに」

「跡部がイギリス戻るって聞いたときも、部室でワンワン泣いただろーが」

「跡部行ってないじゃん」

「あーあーそうだな。結局、戻るんじゃなくて単なる里帰りで1週間だけだったしなー」



「良かったよねー。跡部行っちゃうと思って、すんごく悲しかったC…」

「って、そんな話しをしてんじゃねーんだよっっっ!」



「岳人が言い出したんじゃん」

「例え話だろーが!」

「声でかい〜。さっきから怒鳴りっぱなし。どーしたのさ」

「おーまーえーがー」

「う?」

「その『う?』、ヤメロ!」

「なんだよ〜」

「はぁ、はぁっ」

「はい、お水」

「あぁ…サンキュ」

「どういたしまして。で、なになに?これから宍戸んとこ行くの?遊ぶ??テニスする??」

「するかーっ!!!」

「ーっ、耳いた〜い」

「…もういい。湘南も丸井もどーでもいい」

「えぇ〜?丸井くん、どうでもよくねーし」

「二人で勝手にイチャついてくれ。好きにしろ」

「イチャイチャなんて、できねぇ」

「……なんで。付き合ってんだろ?」

「恥ずかC」

「…あっそ」







「そろそろ俺も仲間、入れてくれへん?」






「「……」」






「忍足?!いたの?」

「最初っからおったんけど…」

「…そういや侑士きてたんだった」

「岳人、酷いわ…」

「なになに、最初から聞いてたのかよ?!」

「ジロー…俺のほうが先にここいたっちゅーに」

「えぇ〜全部聞いてた?!」

「バッチリ…ていうかジローが喋りだしたんやろ」

「おめぇがいるなんて、知らないC!」

「…丁度いいじゃん」

「う?」

「『経験豊富な遊び人』に、同属の心理を聞いてみろよ」

「どうぞく?」

「お前のカレシ、同じ『経験豊富な遊び人』だろ」

「……丸井くんは遊び人じゃねぇもん」

「俺かて遊び人ちゃうわ」

「とりあえず『経験豊富』なんだし、俺に聞くより適任なんじゃねぇか?」

「…………そうなの?忍足」

「まぁ、豊富っちゅーか、ただこん中では経験あるってだけやん」

「全部聞いてただろ?」

「別に盗み聞きしたわけ違うし」

「侑士の感想というか、意見というか、そういうのをこの『初めての彼氏でどうしたらいいかわかんない誰とも付き合ったことが無い子』に教えてやれよ」

「そのキャッチコピー、何なのさ」

「お前が言ったことを一言一句違えず言っただけだ」

「よ〜間違えずいえたなぁ」

「なんだよぉ〜」






「ジローの初めての恋人が男で丸井ってのにどう突っ込んでいいか考えてたんやけど、それももうスルーすることにするわ。
けど跡部には内緒にしといたほうがええで。
あーはいはい。そういうことじゃないってな。

つまり、初体験の子を相手にするときの、男の心理っちゅーもんは―」









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