夏・木曜日





「…いらっしゃい」

「はい、これ」

「ありがと…ケーキ?」

「夏みかんゼリーと、イチジクの杏仁豆腐」

「作ったの?」

「親戚に夏みかんいっぱいもらったからな。イチジクはついで。ジロくん、好きだろ?」

「…うん」

「おばさん、ゼリー食べたいって言ってたし」

「それで、わざわざ?」

「タルトか迷ったけど、ゼリーのほうがサッパリ食べれて、残暑にはちょうどいいしな」

「ありがと。お母さんに渡しとくね」

「おう」

「先に部屋行ってて。麦茶でいい?オレンジジュースにする?」

「暑っちいから冷たいお茶がいいな〜」

「りょーかい」






「はい、どーぞ」

「サンキュ」

「……」

「いや〜まだまだ暑いなー外」

「…ん」

「あ、そういやこれ」

「?」

「借りてた漫画。月曜返すの忘れてた」

「あ…」

「わりぃな。返しにきたってのに、カバンに入れっぱなしだった」

「…うん」

「俺もいっぱいいっぱいだったし」

「…」

「あのさ」

「…」

「急でびっくりしたかもしんないけど」

「…」

「本気だから」

「…っ」

「はっきりさせたくて、今日来たんだ」

「!」





「ジロくんが好きです」




「まるいくん…」






「お前とテニスすんの好きだし、俺のこと褒めてくれんのも嬉しい。
ゲームも漫画も趣味あうし、なんだかんだ一緒に遊んでると楽しいしさ」

「…オレも、そうだよ。丸井くんと遊ぶの、好き」

「うん。そりゃわかる。お前が俺を大好きなのもわかる」

「す、好きって」

「違うのかよ?」

「…違わないけど」

「初めて会ったときから、俺のこと大好きじゃん」

「……」

「なぁ、なんで俺なの?」

「…え」

「あの頃、俺よりもっとうまいヤツなんて、立海にはゴロゴロいたし」

「……」

「今でも幸村くんや柳、真田とかさ。俺より強い…て認めるのもシャクだけど、まぁ強いわな」

「……」

「お前、立海きても俺のプレーばっか見てるじゃん。隣で幸村くんが打っててもさ」

「…丸井くんは、オレの憧れだもん」

「うん。知ってる。でも、それが何でかな、と」

「……」

「ただ単に、ボレー好きだから?」

「……」

「なら、他にもうまいボレーヤーいるしな」

「…ぜんぜん、違うよ」

「うん?」

「丸井くんは、他の誰とも違うもん」

「…どんなふうに?」

「丸井くんがネットに出ると、わくわくするし、予想外なとこばっかり狙ってくるし、想像つかないことしてくるから、ずっと見ていたくなるんだよ」

「裏をつく?なら、うちの仁王や柳も得意とするところだな」

「全然違うし!丸井くんと同じことなんて、他に誰にもできないんだよ?!」

「…そうか?」

「そーだよ。妙技は丸井くんだけの特別な、キラキラした技だC!」

「キラキラ…」

「オレも練習してるけど、なっかなかうまくいかなくて。丸井くんに教えてもらって、ちょっとは上達したけど」

「まー俺の域に達するにはまだまだだな」

「頑張るもん…」

「そっかそっか。ジロくんは俺のテニスが好きだ、と」

「もちろん!!」

「テニスだけ?」

「ほぇ?」

「俺って、お前にとってテニスだけ?」

「な、なにそれ」






「俺のテニスが好きなら、ただ見てるだけでよかっただろ」



「…なんでそんなこというの?」





「それでも、コート外で話し掛けてきたよな。それって、ただ単にファンだったから?」

「…中2のときのこと?」

「あんときはお前のことよく知らなくて、新人戦の相手くらいの認識だったし」

「わかんないけど……気づいたら丸井くんが目の前にいて、すんごく嬉しくなって、つい」

「ファン心理?」

「…そうかもしんない。オレ、丸井くんの一番のファンだったもん」

「過去形?」

「今も一番好きだけど…」

「一番好き、ね」

「あ、いや、その、好きって、その」

「大丈夫。ジロくんが俺のファンで、俺のこと大好きなのはわかってるから」

「なに言って…」

「あれからいっぱい遊んだし、いわゆる『友達』としてはすんげぇ気が合うし面白いし」

「え…」

「最初はただの俺のファンくらいな感覚だったけど、ジロくん一生懸命だし、泳ぐのちょー早いし」

「水泳は得意だけど…」

「スノボも上級者で、バスケもサッカーも、俺、かなわねぇし」

「…なんで、水泳にスノボ?」

「いろいろやったよなーって。冬休みにゲレンデいったし、ストリートバスケもやったなー」

「……うん」

「全部、楽しかったよな」

「うん?」

「ジロくんと出会って、お前すっげぇいいヤツだし、最高の友達だって思ってる。色々、楽しかった」

「…なんで、過去形?」

「俺、ジロくんと一緒に遊びたいし、もっともっと色々なことしたい」

「オレも、丸井くんと一緒にいると楽しいし、遊びたいよ」

「うん。そうだな」

「うん」

「あのさ」

「…」





「ジロくんの本心で答えて。少しでも俺に可能性あるか、まったく無いのか」

「え…」




「そういう気がゼロなら、きっぱりフッてくれ」

「っ!」

「そりゃもちろん、受け入れてくれれば嬉しいけど、ジロくんが俺を大好きな気持ちを利用したくねぇ」

「まるいくん…」

「3日前のこと、謝るつもり無い」

「!!」

「好きだから、ああいうことしたいのは俺の本心だ。
お前が受け入れたら、もっと先までやる」

「ーっ!」

「でも、もし嫌だったら…『無し』なら、きっぱりはっきり失恋するし、月曜のことも謝る」

「あやま、る…」

「うん。そしたら、しばらく会わない」

「え…!」

「失恋するんだ。しばらく心落ち着かせる時間くらいくれ」

「やだ!!」

「ん?」

「丸井くんと会えないなんて、嫌だよっ…」

「…何も今生の別れじゃねぇよ。俺が気持ち整理できるまでだ」

「やだ、やだよ。なんでそんなこと言うの…」

「あのなぁ。好きなヤツに振られて、それでも一緒に遊べるかよ。ちょっとは時間がいるんだよ」

「なんで?!」

「こら、落ち着け。友達やめるわけじゃねーんだから」

「やだやだ、行かないで…!」






「…俺に行くなってことは、こういうことだぞ」


「っ!!」





「こうやって抱きしめるし、触れたいし」

「あ…」

「キスだってする」

「キス……きす?!」

「…いい?ジロくん」

「っ!」

「嫌ならしない」

「お、おれー」

「ジロくんのこと、友達として大切だし、好きだけどー」

「え…」

「こういうコトしたい気持ちのほうが、勝ってるんだ」

「…!」

「抵抗ないってことは、オッケーとみなすけど」

「あっ…」

「…イヤなら、ちゃんと突き放せ。無理強いしたくない」

「っ」

「……」

「……」

「……」

「……」

「なぁ、ジロくん」

「……」

「いま、どんな気持ち?」

「…い、ま」

「うん。困ってる?俺にぎゅってされて」

「そんな…」

「きもちわるい?」

「そんなわけ、ない」

「離してほしい?」

「………うん」

「……」

「……」




「…やっぱ、そっかぁ。そうだよなぁ」


「…え」

「ごめんな」

「まるいくん…?」

「わりい。困らせちゃったな」

「な、に…」

「はぁ〜、200%だと思ったのにな〜」

「にひゃく…?」

「ん、何でもねぇ。俺、帰るわ」

「えっ」

「悪かったな。変なこと言って」

「あ、ちょっ…」

「ごめん。忘れて」

「?」

「しばらく時間くれ。ふっきれたら、電話するから」

「!!」

「じゃあ、また―」

「丸井くんっ!!」





「ジロくん?」


「帰っちゃやだ…っ」






「…俺、都合よく解釈しちゃうけど?」

「何でもいいもん…ここにいてよ!」

「こうやって抱きつかれると、抱きしめ返しちゃうけど、いいのか?」

「…うん」

「キスしちゃうかもしれないけど、それもいい?」

「……」

「それはだめ?」

「………」

「離してほしいんじゃなかったのか?」

「………うん」

「なら」

「だって!」

「うん?」

「だってだって、丸井くんがっ」

「俺?」

「すっごい、か、かお、近いし、ぎゅ、ぎゅって!」

「おおい、落ち着け落ち着け」

「お、落ち着けないC!!バクハツしそうでっ」

「…ん?」

「ま、丸井くん、急にギュってするし、ち、近いし、オレ、ドキドキして、心臓ばくばくしてるし」

「それって」

「これ以上ぎゅってされたら、死んじゃうよ!」

「…俺、喜んでいいよな、これ」

「なにが!?こんなに胸がばっくばくなのに!!丸井くんのせいだC!」

「ああ、全部俺のせいだな」

「頭ぐるぐるして、わけわかんねぇ。顔もアツイし」

「…ほんとだ。顔、真っ赤」

「〜っ!!」

「なぁ、ジロくん。俺も、一緒」

「わっ…」





「聞こえる?」

「……まるいく、ん…心臓の、おと?」




「うん。ばっくばくだろ」

「…ん」

「俺も、ジロくんと一緒。ドキドキして、ばくばくしてる」

「…ほんとだ」

「好きな人を抱きしめてるから、ドキドキしてる」

「すきな、ひと…」

「うん。友情もあるけど、それ以上の好きがぎゅーって、この胸には詰まってんだ」

「……じゃあ、オレがどきどきなのも、丸井くんが好きだから…?」


「その通り!!
…って言いたいところだけど、それはジロくんだけが知ってることだから」

「オレ、だけ…」

「ジロくんのどきどきは、ただこうやって他人の体温を感じたことが無いからかもしんねーし」

「そんなこと!」

「俺のどきどきは『好き』だからだけど、ジロくんのがそうとは限らないだろ」

「丸井くんにしか、どきどきしねぇもん!!」

「……そりゃどうも」


「オレ…テニスはあったり前だけど、それと同じくらい丸井くんと一緒に遊ぶのが一番楽しい。
一昨日から丸井くんのこと考えると、心臓ばくばくして、どっきどきで、苦しくて。
でも、今日会ったらやっぱり嬉しくて。
ぐるぐるしてパニックになりそうだけど、丸井くんがどこか行っちゃうと思ったら……そんなの、ぜってぇ嫌だ!!
丸井くんのことでしか、こんなにぐるぐるしないよ!!」


「ジロくん…」


「オレ、丸井くんのこと、すー…んんっ!!」




ちゅっ




「んんっ」

「…」

「はぁ、はぁっ…」

「…ジロくん、好きだ」

「っ…」

「もう一回、いい?」

「………ん」



チュッ





「…ジロくん?」

「……はずかしいC」

「あはは!」

「笑わないでよ!」

「ごめんごめん。嬉しくてさ」

「……」







「ジロくん、好きです。付き合ってください」





「……オレも、まるいくん、好き」






「ーっしゃあ!!」

「わっ!び、びっくりした」

「いやー、直感信じてよかったー200%!!」

「?何なの、その200%って」

「俺の直感の話し」

「はぁ」

「ってことでジロくん」

「う?」

「両思いになりました」

「はい」

「恋人同士です」

「…照れるC」

「可愛いこと言うなよ。チューするぞ」

「……何言ってんだか」

「とにかく、カップルです」

「はい」







「てなわけで、この前の続き、していい?」




「―は?」







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