夏・水曜日




「お前、どうしたわけ?」

「ん…」

「昨日もずーっとボーっとしてるし」

「うん…」

「ゲームやんねぇのかよ。お前がやりたいって言うから」

「ん…」

「…本当に、どーしたんだ?」

「うん…」

「おい、ジロー?」

「うっ…」

「月曜、丸井が来たんだろ?ケンカでもしたのかよ。
お前、丸井と遊んだ次の日はテンション高ぇじゃん」

「そうだっけ…」

「なのに昨日は始終ぼさーっとしてるし、今日もボケーっとしてるし」

「……」

「丸井と何か、あった?」

「まるいくん…」

「そう」

「まるいく…っ…」

「え、あ、おい。ちょっと」

「な、なにも、ない、よ…」

「目、うるうるさせて、何が何もねぇだよ。やっぱケンカしたのか?」

「違うC〜」

「じゃあ、何だよ」

「うっ…」

「丸井と何かあったから、昨日からボサーっとしてんだろ?」

「…ぼさーっとなんか、してねぇもん」

「してるっつーの。何言っても右から左だし」

「……」

「何年一緒にいると思ってんだ。お前のことなんてお見通しなんだよ。ほら、言え」

「ううぅぅぅ」

「何なら亮も呼ぶか?」

「…やだ」

「じゃあ、侑士?」

「問題外だC」

「なんだよ。跡部呼ぶぞ?」

「だ、ダメダメ!ぜってぇダメ!!」





「…跡部に言えない、何をしたんだ、お前」

「オレ、何もしてねぇもん…」





「じゃあ何でそんなに嫌がるんだよ」

「あ、跡部にバレたら、丸井くんがー」

「やっぱり丸井か」

「あ」

「ほら、きりきりはけ。言え。どうせ最後には言うんだから、今言え」

「…岳人だけだからね?」

「あぁ。誰にも言わねぇよ」

「ほんとにほんとに、宍戸にも言ったらダメなんだC」

「亮にも言えねぇことなのかよ」

「…言えないこともないけど、でもでも」

「わかった。最初にとりあえず俺が聞く」

「誰にも言っちゃダメだよ?」

「わーたって」

「あのね…」









「……」

「がくと?」







「……」

「あの…」

「……」

「何か言って…」

「……」

「わーわー、もう、だから言いたくなかったんだ」

「……」

「すっごい恥ずかしいんだかんね。岳人だから言うんだC」

「…お前」

「な、なに?」

「……お前はどうなんだ」

「う?」

「恥ずかしかったのはわかった」

「うん」

「ましてや大好きで憧れのヤツに、急にそんなことされてパニックになったのも、わかった」

「…うん」

「で?」

「うん?」

「お前はどーしたいんだ」

「どうって…」

「要するに丸井はお前のことが好きなんだろ?」

「す、す、好き…」

「どもんな。照れんな。お前が言ったんだ」

「うん…」

「お前も丸井のこと、好きなんだろ?」

「好きっていうか、そりゃ、好きだけど」

「どういう好きか、わかんねぇって?」

「………うん」




(そういうコトに抵抗ない自体、明らかだと思うけどな)




「嫌じゃなかったんだろ?」

「イヤとか、そんなこと思う前に、恥ずかしいっていうか」

「キライになった?」

「え?」

「そーいうことされて、丸井のこと、気持ちわるいとか、嫌だとか」

「そんなワケねぇし!!オレ、丸井くんのこと大好きだもん!」

「じゃ問題ねーじゃん」

「……でもぉ」

「なんだよ、何が問題なんだよ」

「なにって…」

「丸井に告られて、お前もあいつが好きで、大団円、じゃねぇの?」

「でも、オレ、男だし…」

「お前そういうの気にしねーじゃん。時々男に告白されてるし」

「そうだけど…」

「丸井は本気だろ」

「そんなの、わかんねぇし…」

「本気じゃなきゃ、友達で男に告白なんてしねーだろ」

「でも、丸井くんって…何ていうか」

「平たく言えば、遊び人?」

「…」

「睨むなよ。有名じゃん。立海の丸井と仁王。
テニスも凄いけど、プライベートもしっちゃかめっちゃかだって」

「…」

「噂レベルだけどなー」

「…」

「でも、あいついーやつじゃん」

「…うん」

「彼女とっかえひっかえだとしても、友達としてイイやつだろ」

「うん。いつも面倒みてくれるし、ケーキ作ってくれるし、寝てても起こしてくれるし」

「お前の『イイ人』の基準も微妙だけどな」

「う?」

「何でもない。まぁ、そんなモテる丸井がな、あえて友達のお前に告ったワケだ」

「うん」





「本気に決まってんじゃん」


「……そう思う?」





「からかってとか、遊びとか、ありえねーだろ。同じ男相手に。しかも友達だぞ?」

「ん…」

「もし万が一、丸井が遊びでそんなことお前にしたなら、跡部が黙っちゃいねぇし、あっちだって幸村が許さないだろ」

「……」

「俺も亮も、丸井のこと許さねぇ」

「……例え話でしょ。丸井くん、そんなヤツじゃねーし」

「だから言ってんじゃん。本気だって」

「…」

「庇うってことは、お前だってわかってんだろ?」

「…」




「ほら、言ってみろ。何が問題なんだ。てういかお前はどうなんだ。好きなのか?」

「好き、なのかなぁ」

「好きじゃなかったら、いくらなんでもフツー、抵抗するだろ」

「…そうだけど」

「試しに付き合ってみればいーじゃん」

「ためし?」

「そ。告白オッケーして、お付き合いしてみて、本当に好きなのか判断すればいいんじゃねぇの?」

「好きかどうかもわかんないのに、付き合うとか、そんなの!」

「相手に悪いって?」

「今まで告白してくれた子たちにも『付き合ってみないとわかんない』って言われたけど…」

「全部断ってたしなー、お前」

「付き合ってみて、好きじゃなかったからって別れるのって、酷くない?」

「そりゃそーだな」

「ならっ」

「けど、お前に告白してきたヤツらと、丸井とじゃ違うだろ」

「…っ」

「少なくとも、お前は丸井のこと好きじゃん」

「だから、それがどういう『好き』かなんてー」

「もう一回、ちゃんと会ってみろよ」

「え…」

「面と向かって、丸井とちゃんとその話して、それでも丸井のこと好きだと思うなら、お前も丸井と同じ気持ちなんだよ」

「好きだよ、好きだけど、でもっ」

「でもでも言うな。とりあえず会え。話せ」

「〜っ」

「そんで、やっぱり憧れで友情だと思うなら、キッパリ断れ」

「…!!」

「ふっても友達でいてくれるだろ、丸井なら」

「丸井くんに辛い思いなんて、させたくねぇし」

「それが答えだろ」

「なんだよっ」

「気づいてないのか、気づきたくないのか。どっちなんだ、お前」

「っ!もういい!帰るっ!!」

「おう、帰れ」

「う〜」

「ぐるぐるしてるくらいなら、とっとと会いに行け」




「それが出来ればこんなに悩まないC!
今までこんなこと無かったのに…
月曜日にあんなことがあってから、丸井くんのこと考えると頭がかぁーっとするし、心臓もばくばくして、すっげぇどきどきするし…っ
もう、ワケわかんない…っ。

とりあえず帰るっっっ!!」





バタバタバタバターっ






「……それを人は、恋、というんじゃないのか?」








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