冬・12月27日





「では、お茶を淹れてきましょう」

「俺も行こう」

「いえ、柳くんは座っていてください。場所を提供していただいていることですし」

「鉄観音茶がいいナリ」

「貴方は手伝いなさい!」

「何で」

「真田君と桑原君は買出し、幸村君には差し入れをいただきました。
柳くんは場所提供と家庭教師。となるとお茶淹れるのは私と仁王くんの役割でしょう。
せっかくなので幸村くんのお土産を出しましょうか。
いいですか?個別にお茶を所望するのなら手伝いなさい。でないと全員緑茶です」

「ブン太は?」

「丸井くんは心配事があるのでしょう。声かけても上の空ですしね」

「…しょうがないのう」

「柳生。急須とティーポット、茶葉の場所もあるので念のため俺も行こう」

「ああ、そうですね。すみません」

「いってきんしゃい」

「仁王くん!あなたもとっとと来なさい」

「…おーこわ。厳しいのう」





「ブン太?」

「……」

「おーい。大丈夫かい?」

「…あ、うん」

「宿題もあまり進んでいないようだね。今日中に終わる?」

「あー、ごめん。ちゃんとやる。せっかく皆教えてくれるし…」

「それはいいんだけど。……元気ないみたいだね」

「えっ…」

「いつもならお茶淹れに行くだろう?でないと仁王に何茶にされるかわからない」

「!!アイツっ、いつの間に」

「柳生と蓮二もいるから、そう変なことは出来ないだろう」

「……なら、いいか」

「どうかした?」

「……」

「珍しいね。いつも元気なブン太が」

「…別に」



「芥川と何かあったのかな?」

「ぶっ…ごほっ、ごほっ」



「大丈夫?水飲むかい?」」

「わ、悪ィ…だいじょうぶ」

「ならよかった」

「って、幸村くん?!」

「うん?」

「な、な、なんで」

「ほら、落ち着いて」

「ん……じゃなくて、何で?!芥川って」

「ああ、付き合ってるんだろう?」

「!!」

「ブン太?」

「な、何で、知って―まさか、仁王!?」

「あいつはそういうの、言わないだろ」

「…そうだった。じゃあ、どうして―」

「見てればわかるよ」

「え?!」

「夏休み明けか、そのあたりからだろう?」

「…!」

「ブン太が彼を見る目が、違ったからかな」

「…そんなに?」

「今まで見たことないくらい、優しい顔してる」

「う…」

「プレーも安定して、調子いいみたいだし」

「ソウデスッケ」

「そうですよー。まぁ、そんなに驚かなかったけど」

「…まじ?」

「二人一緒にいるところが、しっくりきてたからかな」

「しっくり…」

「これから色々あるかもしれないけど、二人とも幸せだろう?」

「…ん」

「だから、かな。ブン太が幸せで、テニスも好調なら言うことないよ」

「幸村くん…」

「けど、なんだか今日、暗いから、どうしたのかなーってね」

「……」

「終業式後に芥川と会うって言ってたから、何かあったかな?」

「…何も、無いよ」

「?」

「……俺とジロくん、何も、ない」

「…ブン太?」

「……」

「付き合ってるんだろう?芥川のこと、本気で―」

「本気。初めての、ちゃんとした好きなヤツで…」

「夏までのブン太はお世辞にも誠実とは言えなかったからなぁ」

「ぶっ!ごほっ、ごほっ…」

「水、いる?」

「もらう!…っ…て、幸村くん?!」

「放課後校門前に迎えの車が来て、美人のオネーサンとくれば」

「……」

「よく先生方に見つからずに済んだよね。
まぁ、部活の終わる頃でだいぶ遅い時間だったことが幸いした、かな?」

「…すみません」

「それで部活を中断・早退するようなら問題だけど、終わってからなら管理は個人に任せるし、そこまで馬鹿じゃないだろう」

「……ハイ」

「お前も、仁王も」

「いや、アイツは―」

「仁王のほうがうまくやってるかな。間違っても校門に車つけさせるようなことはしないしね」

「……ゴメンナサイ」

「もうしないんだろう?」

「…はぁ」

「あれ?芥川がいるのに、ブン太はまだオネーサンたちと…」

「!!も、もちろん、しない、しないです。当たり前」

「だよね。あんな、ブン太のことを信じきってる純粋な子を裏切るような真似は」

「つじ●ちさんに誓って!」

「…誰だい?」

「俺の神。ケーキのカリスマ」

「あっそ」

「過去の節操無しなところは全て反省してマス。もう二度とあんな考え無しなことしません」

「別にいいんだよ?部活や学校に影響無い範囲で、ブン太の好きにすればいいんだし」

「…ジロくんは特別なんだ。絶対に、大切にするって決めたし、だから!昔のこと、ジロくんに―」

「言わないよ。言う必要が無いだろ?」

「……」

「それとも、そんなことを芥川へ言うように見えるかい?」

「…ごめん、そうだった」

「ブン太も芥川も幸せなら、それでいいんじゃない?」

「幸村くん…」

「前と違ってブン太が真面目に、誠実に向き合ってるなら、なおさらね」



「誠実、か」

「ブン太?」



「…俺、さ。確かに前はしっちゃかめっちゃかだったけど、今はちゃんと、本気なんだ」

「うん、ブン太が高校生らしく、恋愛してるんだなってわかるよ」

「……高校生らしく」

「毎週コート脇で応援してる芥川も、ベンチで待ってる彼の元へ駆け寄るブン太も。
見ていて微笑ましいからね」

「…まさか、幸村くん以外も」

「蓮二は気づいてるだろうけど、真田はどうかな?」

「真田か……面倒なことになりそうな」

「戸惑うだろうけど、変なことは言わないさ」

「不純同性交遊なんてたるんどる!とか言うんじゃねぇの?」

「あれで意外と頭固くは無いから」

「俺に言うのはいいけど、ジロくん傷つけるようなこと言ったら―」

「学校生活に影響出れば説教だろうけど、そうでなければ何も言わないよ。言うとしても芥川じゃなくて、ブン太にだろう」

「…だな」



「それで、芥川なのかい?」

「へ?」



「ブン太のため息の理由」

「…いや、その」

「夏からずっと幸せオーラ全開だった気がするんだけど」

「ソウダッケ」

「さっきの、『何も、無い』が原因?」

「うっ…」

「何も無い、か。―何も無い…ねぇ」

「ゆ、幸村くん?」

「察するに、何もできない?」

「ぶっ…!!」

「…水、さっき飲み干したね。まぁ、もうすぐお茶がくるか」

「ごほっ、ごほっ!」

「仁王に麦茶でも持ってきてもらう?」

「よ、呼ばなくていいから!お茶、待てる!」

「むせてるけど」

「ごほっ…へ、へいき」

「そう?」

「はぁ、はぁ…っ」



「落ち着いた?」

「…ハイ」



「芥川、か」

「…」

「なんか、そういうのが想像しにくい、かな」

「…そう思う?」

「無邪気で天真爛漫だから、色恋沙汰とは無縁に見えなくもない」

「…」

「けど、ああいう子が実は経験アリなケースもあるだろ?」

「ジロくんに限って、無い」

「言い切るなぁ。やっぱり、無縁?」

「…明るくて、元気で、すっげぇいいヤツで」

「うん、いい子だね」

「皆が言う通り、無邪気で……純粋、なんだよ」

「…ちなみに聞くけど、その先も込みのお付き合い、なんだよね?」

「………そのつもり」

「女や男、ブン太はそこへの抵抗は無いだろうから」

「くっ…」

「となると芥川、か。拒否でもされた?」

「……」

「ワケないよね。芥川、先週も元気いっぱいで、幸せそうな笑顔だったし」

「…うん」

「そういうのに興味が無い?こともないか。あっちも高校生の男だし」

「……いや、興味が無いのかも」

「ブン太?」

「正直、わかんねぇ」

「あの子は天真爛漫で無邪気だけど、子供っぽいのともまた違うんじゃない?」

「それは、そうなんだけどさ。でもっ…あいつ、本当にわかってんのか」

「…?」

「あいつの目、すっげぇ純粋で……あんな、信じきってる目で見られたら、俺」



「……ブン太、恋してるんだね」

「ぶっ!!」



「…今度むせたら、やっぱり仁王にお茶を―」

「い、いいって!ゆ、幸村くんが変な事言うから」

「変なことかな?素敵だよ。真剣に想う人がいるなんてさ」

「うっ…」

「大切すぎて、手が出せないなんて。夏前のブン太に言い聞かせてあげたいくらい」

「記憶抹消で頼みマス」

「あはは」

「だぁ!もうヤメ!この話、終了!!」

「からかいすぎたかな?」

「もう、勘弁してよ…」



「でも、さ。いくら中学の頃から憧れてたとはいえ、男からの告白受けるのは相当の覚悟したはずでしょ?芥川は」

「……」



「ブン太も」

「…まぁ」

「彼もきっとわかってるし、自然とそうなるんじゃないのかな」

「……うん」

「まぁ、芥川も。ブン太のこと、すっごい目で見てるしね」

「え?」

「恋する乙女」

「ぶっ!ごほ、ごほっ!!」

「仁王ー!ちょっと麦茶持ってきてくれる?」

「ちょ…っ、待っ、幸村くっ…ごほっ」






「ほらブン太、飲みんしゃい」

「…サンキュ」

「いいタイミングだったね」

「すみません、遅れまして。幸村くん、こちらを」

「ありがとう、柳生」

「そろそろ源一郎たちも着く頃だ。あと5分といったところか」

「ちょうどいいタイミングでしたね」

「これ食ってええか?」

「待ちなさい仁王くん。皆、そろってから―」

「いいんじゃない?真田たちも、すぐ来るだろうし」



「ぶはっ!!」



「丸井くん?」

「ほう…一口で、吐き出す、と」

「予想通りの反応じゃの〜」

「何のお茶なんだい?これ」

「精市のは普通の玉露だ」

「私も同じく」

「俺は煎茶だ。ちなみに源一郎たちのリクエストを聞くのは面倒くさいので、お湯淹れるだけの二番茶にする。よって選択肢は無い」

「鉄観音ナリ」




「オイコラ仁王。何のお茶淹れやがった?!」

「味の感想は?ほれ、いいんしゃい」

「クソ苦ぇし、クサイ!!なんだこれ、正露丸か?!」

「センブリ茶とラプサンスーチョンのコラボレーション」

「あんだと?!」

「ラプサンスーチョンは中国茶ですね。独特のスモーキーフレイバーの紅茶です」

「スモーキーとか言ってんなよ、比呂志!!正露丸だろい!!」

「近いものはありますね」

「で、ブリが何だって?!」

「センブリ言うとるじゃろ」

「その苦さで有名な生薬ですね。胃腸、下痢、腹痛、その他効用も素晴らしい日本古来のハーブのお茶、といったところですか」

「ハーブティとか言ってんなよ、比呂志!!罰ゲームのお茶じゃねぇのか、これ」

「最近、テレビのバラエティでよく罰ゲームで出てるヤツやけん」

「おめぇは何でそんな得体の知れないモン淹れんだよッ!!」

「ほう。それはそのお茶を愛飲している俺の姉への物申しか」

「!柳っ、べ、別にそういうワケじゃあ……って、じゃあ、飲んでみろよ!!」

「謹んで辞退する」

「おい!弟!!」

「姉と俺は味覚が異なるのでな」




―冬休みのとある日。柳蓮二宅で集まり宿題を片付ける立海付属高校テニス部の面々。
まさか神の子と恋愛トークをすることになるとは露ほども思っていなかったけど…
意外にもアッサリ受け入れ『チームメートの恋人は彼氏』に驚きもしない部長は、さすが神の子か。
さらには色々気にしてくれちゃって……密かに嬉しく思った、そんな日でした。






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