冬・12月28日





「あ、あ、だ、だめっ」

「んー、どうしよっかなぁ」

「丸井くん、待って!」

「…と言われても」

「やっ」

「あーだめ、やっぱ流れってのがあんだろい」

「あ、あぁぁぁー」



―You Win !



「また負けたぁ」

「ま、さっきより粘ったんじゃね?」

「うっそだ〜。丸井くんのライフゲージ、全然減ってねぇし」

「今度はジロくんの得意なヤツでいいぞ」

「これも得意だもん」

「俺も得意なんだよな〜」

「ゲーム機持ってないのに、なんで強いの?」

「コレ、中学の時からゲーセンでやり慣れてんだ」

「コントローラー違うのに」

「格ゲーはセンス」

「むぅ」

「ジロくんも強い方だけど、俺の方が上の上だったな」

「ぶー!」

「ゲームも天才的?」

「ちぇ」

「ちょっと休憩。お茶にしよ」

「は〜い」

「紅茶、コーヒー、日本茶?ミルクティ淹れっか?」

「丸井くんは?」

「コーヒー」

「じゃあオレもコーヒー」

「オッケー。ミルク半分と砂糖一杯でいい?」

「ストレート」

「飲めねぇじゃん」

「…飲めるもん」

「眉間にシワ寄せてにっがい顔してちびちび飲んでも美味くないだろい」

「だって…」

「ん?」

「岳人が」

「何。からかわれた?」

「ううん。…岳人もミルクと砂糖入れないと飲めなかったのに、最近ストレートで飲んでるんだ」


「(ほんっと、カワイイなーこいつ。どうしてくれよう)」


「宍戸も鳳、ひよも、滝も。みんなストレート派だからさー、オレだけ飲めないのがやだ」

「嗜好は人それぞれだから、苦手でもいいんじゃねーの?」

「んー。それはそうなんだけど。丸井くんは、最初からコーヒー、飲めた?」

「俺?どうだったかな〜。確かに最初はよくわかんねぇ味だったけどな」

「だよねぇ。苦かった?」

「小学校の頃だしなぁ。いい香りだけど苦味が強い、と感じたかな。けど深みと酸味のバランスが良くて」

「初めて飲んだとき!?そんな感想??」

「最初にストレートで飲んだのがいい豆だったからかもしんねーけど。苦い、まずいだけじゃ無かったかなー」

「天性の味覚の違いだよ〜」

「飲む人が美味いって思えば、どんな飲み方でも、砂糖でもミルクでも、何いれてもいいんだよ」

「ん〜」

「なに、やだ?」

「…みんな、苦いの我慢して飲めるようになって、今はおいしーって言うからさー」

「うん」

「オレもそこを克服すれば、コーヒーの本当の美味しさも楽しめるのになーって思って」

「それも一理あるな」

「だから、ストレートに挑戦してみて、ダメなら諦めることにしようかと」

「ま、それならそれでいいんじゃねぇ?けど、俺だってミルク入れるときもあるし、そん時の体調と気分次第だしさ」

「うん……でも、選択肢多いほうが、何かと得でしょ?」

「はいはい。じゃ、コーヒーな」

「ストレートね!」

「おっけー。一応ホットミルクも淹れるから、コーヒー飲んでみてダメならミルクで割れよ?」

「…は〜い」



「杏仁プリンとゼリー、どっちがいい?」

「作ったの??」

「ゼリーは歳暮の余り。プリンは午前中作った」

「杏仁プリン!」

「苺ソースか蜜柑ソース」

「それも??」

「母さんが庭のプランターで苺育ててさ。正直味は微妙だったからジャムにした」

「まじまじ、すっげぇ」

「ミカンは元々甘いヤツだから、ソースにすんのはちょっともったいねぇけどな」

「親戚に貰ったみかん?静岡の?」

「いや、今回は別の。仁王ん家で貰った」

「あれ?仁王って、出身九州だったっけ」

「アイツ言わねぇんだよな。どっちかの親の実家から届いたミカンらしいんだけど、どこか絶対に教えてくんねぇ」

「みかん、といえば。和歌山?愛媛??」

「九州も産地だしなー」

「ふ〜ん」

「で、好きな方にすっか?イチゴ?」

「う〜ん、ミカンソース…」

「どっちも自信作」

「う〜ん、イチゴソース…」

「はは、わかったわかった。小さいココット皿あるから、それに2種類いれるか」

「え、いいの?」

「ちょっと待っててな」

「ありがと〜。あ、手伝う!」

「いいって。座ってて」

「でも」

「じゃあ、風呂。お湯いれてきて?」

「うん!!」



―バタバタバタバター



(あ〜あ、走ってった。…ったく、どうやったらあんな可愛い生きモンになるんだろうな。
お茶して、風呂入って、後は………よし、落ち着け。
夜は長い……いや、もう21時だな。ジロくんの就寝時間がだいたい22時半。

…いけるか?)






「ごちそうさまでした!」

「よし、じゃあ風呂入ってきて」

「え、オレが片付けるよ」

「いいよ、先どうぞ」

「丸井くんが全部やってくれてるし、後片付けくらいさせてよー」

「サンキュ。でも、本当、皿洗うだけだし」

「オレが洗うから、丸井くんお風呂いってきて」

「いや、ジロくんが」

「いやいや、丸井くんが」

「お湯熱いうちに、入ってこいって」




「あ、そーだ。じゃ、一緒に入っちゃう??」

「ぶっ!!」




「う?」

「な、ジロくっ…ごほっ、ごほっ」

「だいじょーぶ?なんかむせちゃった?あ、麦茶出すね。コップかりまーす」

「…っ…だ、大丈夫」

「びっくりしたC」



(俺の方がびっくりしたっつーの!
本当……ジロくん、わかってんのか?)



「えへへ。一緒ならお風呂にとる時間一回で済むし、そしたらその分、丸井くんと一緒にいられるもんね」

「!!」



(コイツが意識して言ってるわけじゃないのはわかってるけど……でもっ。
その笑顔は反則だろい)



「じゃ、洗っちゃうから拭いて?」

「…おう」

「あ、でもお皿とフォーク、コップだけだね。珈琲のヤツ、もう洗っちゃったんだ?」

「……」

「まるいくん?」

「…あ、ああ。基本的にやりながら洗っちゃうから」

「へぇ〜さっすがだC」

「……ん」

「はい、終わりー!」

「…うん」

「じゃ、お風呂いこ?」

「……」

「?」

「……」

「まるいくん??」

「…着替えとってくるから、先入ってて」

「ん、わかったー」

「ジロくん、スウェットとパジャマ、どっちがいい?」

「あったかい方がいいな〜」

「ラジャー」

「じゃあ、お先に!早くきてね」

「…おう」




(早く、って……ジロくん、まじか。
どうしたもんかな。一緒に風呂なんて入ったら…
あぁぁあああ…我慢できるか?俺。
理性を保つ自信が―けど、あの時みたいに、もし泣かれたら。
裸のジロくん前にして、ちゃんと止められんのかな……自信ねぇな)




―『彼もきっとわかってるし、自然とそうなるんじゃないのかな』




(…そうだよな、うん。付き合ってるんだし。4ヶ月たったし。
キス、嫌がんねぇし。幸村くんもああ言ってたし。

覚悟を決めろ、ブン太。
行くっきゃねぇ。ジロくんだって、わかってる………はず。
…よし、行く!!)




―ガチャ。




「あ、まるいくん」

「…あれっ?」

「遅いC〜。あがっちゃったよー」

「…っ!!
(し、しまった!ジロくん、基本シャワーでめっちゃ早いんだった!)」

「えへへ、いいお湯でした。入浴剤はオレンジのヤツにしたよ。いいニオイ」

「(くっそ…)」

「あ、パジャマありがと〜」

「(なんであんなに部屋で迷っちゃったんだ…)」

「う?まるいくん??」

「……あったまった?」

「うん!」

「ん。良かった。じゃ、部屋行ってて」

「髪かわかすから、ここにいるよ〜」

「脱衣所ちょっと寒いし。俺の部屋にもドライヤーあるからさ」

「んー」

「ほら、早く着替えて」

「ウィーッス!」




(一緒に風呂入って、その分一緒にいたいってのはどーしたんだ、ジロくん。
…いや、俺が遅かったのが……って、5分切ってないだろ?!
あー…

ジロくん並にダッシュで風呂あがんねぇと)




ちっくしょおぉぉぉおおおおおおーッ!!!











「おかえりー」

「髪、ちゃんとかわかしたか?」

「あとちょっと」

「ドライヤー貸して」

「あ、どーぞ」

「ジロくんはこっち。ほら、やってやるから」

「えぇ〜、いいよ、丸井くん乾かしなよ」

「俺、タオルドライで最後にちょっと使うくらいだから。ハイ、来て」

「…は〜い」

「熱かったら言って」

「うん」



―ブォォオオオ〜



「今日、いっぱいいっぱい、ありがとう」

「ん。楽しかったか?」

「買い物も、ご飯も、プリンも、ぜーんぶ美味しいし楽しい!ごちそうさまでした」

「おそまつさま。俺も、ちょー楽しい」

「ほんと?」

「本当。一日中ずーっと一緒にいられるし」

「オレも、丸井くんと夜もずーっと一緒でわっくわく」

「え…」

「えへへ、ちょっとはずかしー」

「(ジロくん…!)」

「どきどき、してる」

「!!」

「はぁ〜風、温かくて気持イイ〜」

「……」

「んっ…」



(うっ…
吐息がなんでそんな色っぽいんだよ。もう、誘ってる……ワケねぇか。
ジロくんだし、ぜってぇ何も考えてない。
俺……いっちゃっていいの?)



「丸井くん、いっつも優しくてかっこいーもん」

「…っ」

「髪もこうやって乾かしてくれるし、……丸井くんの手、ひんやりしてて」

「あ…悪ィ、冷たい?」

「ううん。ドライヤーあったかいけど、手、冷たいから、どっちもイイ気持ちイイ…んんっ」

「ーっ!」




(なんでそんな声出すんだよっ……ダメだ、我慢できねぇ。
いや、我慢しろ、俺。もうちょっと…乾かしたら、もうベッドに連れてって―)




「オレ、丸井くんのこと、もっともっと好き……夏よりも、ずっと―」


!!!!!


(ジロくん…っ
そんな、目ぇ閉じて安心しきった顔で、なんつー…

…いいんだな?
今夜、最後まで、いいんだよな……?)




「……髪、終わり」

「ん…」

「ベッド、行くぞ?」

「…うん」




(…あったかい。
ジロくん…柔らかいし、肌こんな綺麗だったっけ。

嫌がらないし、…怖がって、ないよな?)




「ジロくん…」

「……」

「目、開けて?」

「……」

「今日、最後までしたい」

「……」

「いい?」

「……」

「……」

「……」

「…ジロくん?」

「……」

「まだ、……怖い?」

「……」

「ごめん…でも、嫌だったら、すぐ止める。ジロくんが決心つかないなら、俺、ずっと待つから」

「……」

「大事にする。ジロくんだけが、一番大切な―」

「……」

「ジロくん?」




(なんだ…反応ねぇ。やっぱ怖い?
いや、恥ずかしいって言ってたから、そっちか…?
にしても…

―まさかっ!)





「すーっ…」



「…ウソだろ?(ここで寝るなんてマジか…っ!)」








ちっくしょおぉぉぉおおおおおおーッ!!!





「ん…っ…まるいく……す…き…」

「うっ…くっそぉ…っ」





―愛しい愛しい、大切な人が腕の中にいるというのに、幸せそうに眠る彼を起こせない。
今日という絶好のチャンスを生かせないわが身が情けなすぎると盛大に嘆いても、それでも。
夏にみた彼の泣き顔を思い出すと、強く出れない自分がいて…あの頃の強引な自身はどこへ行ったと思わずにはいられない。
そんな冬の日の、幸せだけど少し残念で、やるせない夜。






>>12月29日   >>目次

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どちらかというと、丸井くんが砂糖とミルクぶち込むイメージ。
ジロくんはストレート、ミルク、砂糖、なんでもアリで飲めそう。

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