冬・12月24日
*短編「ブン太とジローの夏休み一週間」から4ヶ月後
*************************************************
「丸井くん、こっち!」
「ジロくん!悪ィ、待った?」
「ううん、さっき来たばっか」
「終わってダッシュで来たんだけど、やっぱ俺の方が遅かったな」
「待ち合わせ横浜で良かったんだよ?氷帝の方が駅に近いし、横浜まで一本だもん」
「ダメ!こないだ横浜で待ち合わせて、変なヤツに付き纏われただろい」
「でもでも、立海から横浜までバスで、そっからここまで電車でしょ?遠いC」
「いっつもジロくんが来てンだから、たまには俺が行くって」
「丸井くん……えへへ、ありがと」
「けど、しばらくは一人で来んなよ」
「えぇ〜?」
「また変態にストーカーされるかもしんねーだろ」
「あんなのただのキャッチだよ〜。うようよいるし」
「!そんなにしょっちゅう、声かけられてンのか?!」
「街にもよるけど、渋谷と横浜は多いかな〜」
「まさか一人でうろうろしてねぇよな?」
「うろうろって。渋谷はそんなに行かないよ?人多くて酔っちゃう。
でも、岳人の好きなショップがあるから、たまに一緒に行くけど」
「…まぁ、誰かと一緒なら、まだマシか」
「立海行くときは一人で横浜経由するけど」
「!!」
「中学の時からだもん。毎週声かけてくるおにーさんとかいるし。もう慣れっこだよ?」
「じゃ、この前のヤツみたいなのも?!」
「基本的に軽く声かけてくるだけで、スルーして終わり」
「あの変なヤツ、思いっきりジロくんの腕掴んで引っ張ってただろ」
「アレはちょっとびっくりしだけどさ。たま〜に強引な人もいるけど、交番近いしそう変なことする人いないよ?」
「…やっぱ一人は危ねぇだろい」
「オレ、高校生だよ?子供じゃないもん」
「高校生だろうが男だろうが、誰が見ても可愛いんだ!変態に目ぇつけられたら―」
「そんなこと言うの、丸井くんだけだC。オレだって一人で出かけたいもん」
「……本当に、ただのキャッチなんだな?」
「そうだよ。たまたま丸井くんが見たのが、ちょっと強引な人だっただけだよ」
「何かあったら、すぐ大声出すんだぞ?」
「大丈夫だよ〜。防犯ブザーも持ってるし」
「ンなの持ってんのか(驚)。いや、でもジロくんには必要か」
「跡部に持たされた携帯ストラップ形で、ここのヒツジ押したら作動すんの」
「(跡部…!)」
「すぐ跡部家のネットワークに伝わってヘリが来るんだよ。すっげぇの」
「使ったことあんのか?」
「中学のときね。護身用だけど、遭難時にも使えって言われてて」
「どっちで使ったんだ。防犯ブザー?それとも遭難?」
「遭難。部活の合宿で、山道ランニング中に皆とはぐれちゃって」
「よく携帯持ってたな」
「携帯はコテージに置いてたんだけど、跡部にヒツジストラップだけリストバンドにくくりつけられてさ」
「(さすが跡部…!)」
「傾斜急なとこ転がり落ちちゃって、元の道に戻れ無そうだったからヒツジ押したら、すぐ跡部のとこのヘリがきた」
「相変わらずすげぇな」
「めっちゃめちゃ怒られたけどね。『てめぇは練習メニューすらまともにこなせないのか、アーン?』って」
「跡部が怒ることあんの?ジロくんに」
「あるよ〜。いーっつも眉間に皺寄せてるもん。オレだって好きで迷ったわけじゃないC」
「けど、そんなの持たせるくらいだから、心配してんだろ」
「まぁね。しょっちゅう怒られるから慣れっこだけど、遭難どかデッカイことやったら半端なくキレられる」
「殴られんのか?うちの真田みたいに鉄拳?」
「さすがにソレは無いけど、よっぽど怒ってるときは何も言わないでじーっと見つめてくる」
「は?見つめる?」
「あの青い目でじーっと、じーっと、無言で目も逸らさないで見つめられるんだよ。まじまじコワイし〜」
「…それで、どう解決すんだ」
「オレがごめんなさいして終わり」
「え、それで終わり?」
「うん。『跡部、ごめんなさい』って謝ったら、ギュ〜ってしてくれて、それで許してくれる」
「なんだそりゃ。それが氷帝の部員への説教だっつーのかよ。……って、ちょっと待て。ギュ〜?」
「跡部、基本的に外国人だもん。ハグは挨拶で、仲直りのしるしなんだよ」
「……そのハグは、ジロくん以外にもやってんのか?」
「う?どうだろ。見たことねぇけど。でも、皆はあんまり怒られないもん」
「……」
「それよりさ、冬休みだよ!短いけど、やっと休みだね」
「…あぁ」
「次、いつ遊ぶ??明日は丸井くん、クラスのクリスマス会でしょ?」
「そっちは跡部んとこでパーティだろ」
「うん。毎年恒例」
「何時くらいまでだったっけ(せめて、その後にでも―)」
「結構遅くまでどんちゃんやってて、結局跡部ん家泊るんだよね〜」
「…そっか」
「う?なになに」
「いや、何でもねぇ。明後日は冬休みの宿題片すんだよな?」
「岳人んとこで皆で集まって一気にやる予定。丸井くんは明々後日なんだよね?」
「ウチも皆で集合して、柳ん家で一気にやる。真田は自分でやらんか馬鹿者ーとか言いながら結局毎年来るんだけどな」
「じゃあ土曜だからー、28日?」
「だな。うち泊まりに来るか?」
「いいの?」
「俺、土曜一人で留守番だから、ちょうどいいし」
「ひとり?皆は?」
「ばあちゃんは近所のばーさんたちと温泉旅行で、父さんは仕事納めだけど出張先だから、次の日帰ってくる」
「チビちゃんたちも?」
「そ。同窓会で母さんがアイツら連れて実家行ってそのまま泊り」
「丸井くんはお母さんと一緒に行かないの?」
「行かねーよ、遠いし。だからさ、土曜日、来ねぇ?」
「行く!」
「よし!じゃ、夕飯も作るか」
「え、外食でいーよ?」
「せっかくだし、ジロくんのために腕をふるおうかと」
「まじまじ?」
「お菓子だけじゃなくて、料理もそこそこ出来るしな」
「そっか。朝ごはん担当だもんね」
「小学校から朝と弁当と、休みの日は俺が食事担当だから」
「すっげぇ〜丸井くん」
「何でも作れっから、リクエストあればシクヨロ」
「うん!ゲームソフトもってくね。なんかリクエストあれば岳人に借りるから、よろしく」
「おう。何時にする?昼飯くうか、それとも夕方来る?」
「どっちでもいーよ。土曜日昼間用事無いし、店番もまだ言われてないから」
「じゃ、昼でいい?駅前に新しいハンバーグハウスできて、行ってみたかったんだよな〜」
「おっけー。じゃ、家出るころメールするね」
「横浜経由?」
「そだね。横浜からバスか、横浜経由して次の駅からバスか。同じくらいだよねぇ、距離的に」
「よし、次の駅からバスにしろい。あーでも路線違うから、電車乗り換えるほうがちょっと高くつくか」
「う?まぁ、どっちでもいーけど。でも昼間は夕方ほどいないよ?キャッチのおにーさんたち」
「……」
「それに改札からバス停の間は人通りも多いし、禁止されてるから基本的に変なヤツもいねぇし」
「…それならまぁ、いいか」
「心配しすぎだC」
「ばっか、おめぇは可愛いんだから常に気をつけなきゃダメだろい」
「そんなこと丸井くんしか言わないよ〜。オレ、男の子!」
「オトコノコって……だぁ!可愛すぎんだろ」
「わっ!ま、丸井くん、ここ、公園!」
「誰もいねぇし、俺は気にしない」
「オレは気になる〜恥ずかしいからヤダ。はなして〜」
「いいから黙って抱かれてろ」
「なんか、その言い方って…」
(クリスマスはダメか……まぁ、しょーがねぇ。
ジロくん、跡部のパーティ楽しみにしてるっぽいしな。
土曜日、土曜日。落ち着け俺。土曜が勝負だ)
(久しぶりに丸井くん家、お泊りだな〜。何やろっかなぁ。
あさって岳人ん家で、ゲームソフト物色してみよ〜っと。
わっくわく〜楽しみだC!)
―夏にお付き合いをはじめ早4ヶ月。
仲の非常に良い友達同士か、付き合いたての初々しいカップルか。
ひとまず仲良しには違いないが、そろそろ次のステップへ進みそうな、進めなそうな。
そんな二人は未だキス止まり。
>>12月25日 >>目次
[ 78/97 ]