冬・12月24日

*短編「ブン太とジローの夏休み一週間」から4ヶ月後
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「丸井くん、こっち!」

「ジロくん!悪ィ、待った?」

「ううん、さっき来たばっか」

「終わってダッシュで来たんだけど、やっぱ俺の方が遅かったな」

「待ち合わせ横浜で良かったんだよ?氷帝の方が駅に近いし、横浜まで一本だもん」

「ダメ!こないだ横浜で待ち合わせて、変なヤツに付き纏われただろい」

「でもでも、立海から横浜までバスで、そっからここまで電車でしょ?遠いC」

「いっつもジロくんが来てンだから、たまには俺が行くって」

「丸井くん……えへへ、ありがと」

「けど、しばらくは一人で来んなよ」

「えぇ〜?」

「また変態にストーカーされるかもしんねーだろ」

「あんなのただのキャッチだよ〜。うようよいるし」

「!そんなにしょっちゅう、声かけられてンのか?!」

「街にもよるけど、渋谷と横浜は多いかな〜」

「まさか一人でうろうろしてねぇよな?」

「うろうろって。渋谷はそんなに行かないよ?人多くて酔っちゃう。
でも、岳人の好きなショップがあるから、たまに一緒に行くけど」

「…まぁ、誰かと一緒なら、まだマシか」

「立海行くときは一人で横浜経由するけど」

「!!」

「中学の時からだもん。毎週声かけてくるおにーさんとかいるし。もう慣れっこだよ?」

「じゃ、この前のヤツみたいなのも?!」

「基本的に軽く声かけてくるだけで、スルーして終わり」

「あの変なヤツ、思いっきりジロくんの腕掴んで引っ張ってただろ」

「アレはちょっとびっくりしだけどさ。たま〜に強引な人もいるけど、交番近いしそう変なことする人いないよ?」

「…やっぱ一人は危ねぇだろい」

「オレ、高校生だよ?子供じゃないもん」

「高校生だろうが男だろうが、誰が見ても可愛いんだ!変態に目ぇつけられたら―」

「そんなこと言うの、丸井くんだけだC。オレだって一人で出かけたいもん」

「……本当に、ただのキャッチなんだな?」

「そうだよ。たまたま丸井くんが見たのが、ちょっと強引な人だっただけだよ」

「何かあったら、すぐ大声出すんだぞ?」

「大丈夫だよ〜。防犯ブザーも持ってるし」

「ンなの持ってんのか(驚)。いや、でもジロくんには必要か」

「跡部に持たされた携帯ストラップ形で、ここのヒツジ押したら作動すんの」

「(跡部…!)」

「すぐ跡部家のネットワークに伝わってヘリが来るんだよ。すっげぇの」

「使ったことあんのか?」

「中学のときね。護身用だけど、遭難時にも使えって言われてて」

「どっちで使ったんだ。防犯ブザー?それとも遭難?」

「遭難。部活の合宿で、山道ランニング中に皆とはぐれちゃって」

「よく携帯持ってたな」

「携帯はコテージに置いてたんだけど、跡部にヒツジストラップだけリストバンドにくくりつけられてさ」

「(さすが跡部…!)」

「傾斜急なとこ転がり落ちちゃって、元の道に戻れ無そうだったからヒツジ押したら、すぐ跡部のとこのヘリがきた」

「相変わらずすげぇな」

「めっちゃめちゃ怒られたけどね。『てめぇは練習メニューすらまともにこなせないのか、アーン?』って」

「跡部が怒ることあんの?ジロくんに」

「あるよ〜。いーっつも眉間に皺寄せてるもん。オレだって好きで迷ったわけじゃないC」

「けど、そんなの持たせるくらいだから、心配してんだろ」

「まぁね。しょっちゅう怒られるから慣れっこだけど、遭難どかデッカイことやったら半端なくキレられる」

「殴られんのか?うちの真田みたいに鉄拳?」

「さすがにソレは無いけど、よっぽど怒ってるときは何も言わないでじーっと見つめてくる」

「は?見つめる?」

「あの青い目でじーっと、じーっと、無言で目も逸らさないで見つめられるんだよ。まじまじコワイし〜」

「…それで、どう解決すんだ」

「オレがごめんなさいして終わり」

「え、それで終わり?」

「うん。『跡部、ごめんなさい』って謝ったら、ギュ〜ってしてくれて、それで許してくれる」

「なんだそりゃ。それが氷帝の部員への説教だっつーのかよ。……って、ちょっと待て。ギュ〜?」

「跡部、基本的に外国人だもん。ハグは挨拶で、仲直りのしるしなんだよ」

「……そのハグは、ジロくん以外にもやってんのか?」

「う?どうだろ。見たことねぇけど。でも、皆はあんまり怒られないもん」

「……」




「それよりさ、冬休みだよ!短いけど、やっと休みだね」

「…あぁ」

「次、いつ遊ぶ??明日は丸井くん、クラスのクリスマス会でしょ?」

「そっちは跡部んとこでパーティだろ」

「うん。毎年恒例」

「何時くらいまでだったっけ(せめて、その後にでも―)」

「結構遅くまでどんちゃんやってて、結局跡部ん家泊るんだよね〜」

「…そっか」

「う?なになに」

「いや、何でもねぇ。明後日は冬休みの宿題片すんだよな?」

「岳人んとこで皆で集まって一気にやる予定。丸井くんは明々後日なんだよね?」

「ウチも皆で集合して、柳ん家で一気にやる。真田は自分でやらんか馬鹿者ーとか言いながら結局毎年来るんだけどな」

「じゃあ土曜だからー、28日?」

「だな。うち泊まりに来るか?」

「いいの?」

「俺、土曜一人で留守番だから、ちょうどいいし」

「ひとり?皆は?」

「ばあちゃんは近所のばーさんたちと温泉旅行で、父さんは仕事納めだけど出張先だから、次の日帰ってくる」

「チビちゃんたちも?」

「そ。同窓会で母さんがアイツら連れて実家行ってそのまま泊り」

「丸井くんはお母さんと一緒に行かないの?」

「行かねーよ、遠いし。だからさ、土曜日、来ねぇ?」

「行く!」

「よし!じゃ、夕飯も作るか」

「え、外食でいーよ?」

「せっかくだし、ジロくんのために腕をふるおうかと」

「まじまじ?」

「お菓子だけじゃなくて、料理もそこそこ出来るしな」

「そっか。朝ごはん担当だもんね」

「小学校から朝と弁当と、休みの日は俺が食事担当だから」

「すっげぇ〜丸井くん」

「何でも作れっから、リクエストあればシクヨロ」

「うん!ゲームソフトもってくね。なんかリクエストあれば岳人に借りるから、よろしく」

「おう。何時にする?昼飯くうか、それとも夕方来る?」

「どっちでもいーよ。土曜日昼間用事無いし、店番もまだ言われてないから」

「じゃ、昼でいい?駅前に新しいハンバーグハウスできて、行ってみたかったんだよな〜」

「おっけー。じゃ、家出るころメールするね」

「横浜経由?」

「そだね。横浜からバスか、横浜経由して次の駅からバスか。同じくらいだよねぇ、距離的に」

「よし、次の駅からバスにしろい。あーでも路線違うから、電車乗り換えるほうがちょっと高くつくか」

「う?まぁ、どっちでもいーけど。でも昼間は夕方ほどいないよ?キャッチのおにーさんたち」

「……」

「それに改札からバス停の間は人通りも多いし、禁止されてるから基本的に変なヤツもいねぇし」

「…それならまぁ、いいか」

「心配しすぎだC」

「ばっか、おめぇは可愛いんだから常に気をつけなきゃダメだろい」

「そんなこと丸井くんしか言わないよ〜。オレ、男の子!」

「オトコノコって……だぁ!可愛すぎんだろ」

「わっ!ま、丸井くん、ここ、公園!」

「誰もいねぇし、俺は気にしない」

「オレは気になる〜恥ずかしいからヤダ。はなして〜」

「いいから黙って抱かれてろ」

「なんか、その言い方って…」



(クリスマスはダメか……まぁ、しょーがねぇ。
ジロくん、跡部のパーティ楽しみにしてるっぽいしな。
土曜日、土曜日。落ち着け俺。土曜が勝負だ)


(久しぶりに丸井くん家、お泊りだな〜。何やろっかなぁ。
あさって岳人ん家で、ゲームソフト物色してみよ〜っと。
わっくわく〜楽しみだC!)



―夏にお付き合いをはじめ早4ヶ月。
仲の非常に良い友達同士か、付き合いたての初々しいカップルか。
ひとまず仲良しには違いないが、そろそろ次のステップへ進みそうな、進めなそうな。
そんな二人は未だキス止まり。






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